2017年度、公益信託サントリー世界愛鳥基金は4130万円の助成を行いました
2017年4月6日、サントリー世界愛鳥基金の活動助成金贈呈式が東京・学士会館にて行われました。
贈呈式は、運営委員のご紹介の後、サントリーホールディングス執行役員・コーポレートコミュニケーション本部長の福本ともみ氏、環境省自然環境局野生生物課長の上田明浩氏、運営委員長の小林光氏のご挨拶よりはじまり、各助成団体の発表が続きました。
「皆さんが、長い時間をかけて、また確固たる信念を持って活動を続けてこられたからこその成果に、私どもの基金が少しでもお役たてれば幸いです。」 |
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「まさに継続は力と感じております。企業、NPO、そして自治体や国が一緒になって、鳥類の保護活動を一緒に歩むことができればと願っております。」 |
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「今年も非常に多くの応募があるなかで、とくに優秀で期待される団体が助成先に選ばれました。ぜひ有効にお使いいただき着実な一歩を願っています。」 |
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鳥類保護団体への活動助成部門 2017年度 助成プロジェクト一覧は こちら
蘇ったシジュウカラガン、その未来のために
イヌワシの生息環境を向上するための狩場創出の効果検証と人材の育成
琉球諸島のアジサシ類の保全
フィリピンにおけるサシバの密猟撲滅と保全対策の推進
山地に生息するサシバの生態解明と保護のための基礎資料収集
希少種アカショウビンおよびクロツグミの越冬地解明調査
バイオロギングによるウトウの礼文島個体群の採餌海域の解明
アジサシ類の放棄卵の人工孵化から放鳥までのシステムの開発
シマフクロウの未来のために、移動分散後の生息可能地の選定調査と環境整備
2016年からスタートした調査で、現在、57団体、1061人がボランティアで参加しています。2020年までに約2300ヶ所の情報の蓄積をし、鳥類の全国的な分布の変化を明らかにし、保護に役立てていきたいと考えています。
昨年の調査では、外来種であるガビチョウは北東北、関東、九州に集中し、分布の拡大がみられました。また、大きな魚を食べるアオサギなどは、90年代と比べて分布が拡大し、逆に小さな魚を食べる鳥たちには、縮小傾向にありました。90年代に減少傾向にあった夏鳥は復活しているようでした。どなたでも参加できる調査です。調査にぜひ参加ください。
2016年も環境省の生息域外保全計画に基づいて、乗鞍岳で採卵された野生のニホンライチョウの卵12個を恩賜上野動物園、富山市ファミリーパークと大町山岳博物館に搬入し、人工孵卵に取り組みました。その結果、すべての孵化に成功し、オス8羽メス4羽が誕生しました。これらの人工育雛も順調に進み、現在、成鳥と同じくらいにまで成育しています。
2017年の新しい取り組みとしては個体が1年で繁殖可能となるので、飼育下での人工繁殖を予定しており、引き続きニホンライチョウの保護増殖を目的に人工繁殖と飼育の安定化に取り組み、飼育繁殖技術の確立を目指します。
当団体は、コウノトリの野生復帰と生息域外保全に取り組む専門機関や施設が課題の共有を図り、解決策を協議、実施していくことを目的に、2013 年に設立されました。コウノトリの生息環境回復、野外個体群の安定を目指す中、今後は特に野外と飼育施設の連携を推し進めることが期待されています。
2016年には、野外で育った雛への足環装着、市民連携のための普及啓発パンフレットやロゴの作成、さらに、野生復帰事業がはじまった韓国の研究者を招いての国際シンポジウム等を実施しました。2017年は、ホームページの開設やハンドブックの作成を予定しています。
20世紀の始めに繁殖地の島に放されたキツネの捕食により絶滅への道を歩んだシジュウカラガンの群れを取り戻そうと、30年以上かけて活動してきました。2016年は3千羽の飛来数を超え、絶滅の危機は脱したと考えています。
長い保全計画のなかで、現在、力を入れているのが普及啓発活動です。すでに関係者には故人も多くなっており、保全活動の全貌を残したいと考えたからです。昨年はこれまでの活動成果をまとめた書籍の編集作業を行いました。2017年は、ガンたちの飛来の時期に合わせて全国キャラバンを行い、シジュウカラガンの集いを開いてさらなる普及啓発に努める予定です。
現在、イヌワシは全国で500羽程度と言われており、絶滅が危ぶまれています。我々は、20年以上イヌワシを観察してきた知見をもって、2015年に群馬県の赤谷の森で人工林を伐採して狩り場をつくり、伐採の前後でイヌワシの行動がどう違うのかをモニタリングしてきました。すると、伐採の後では、前と比べて飛来頻度が1.7倍に増加し、狩をする行動も4回見られました。この成果を、各地のイヌワシの保護に役立てたいと考えています。
2017年は、新たに1ヘクタールを伐採して試験を続ける予定です。また、宮城県南三陸町でも同様に人工林を伐採する計画を進めています。
ベニアジサシやエリグロアジサシは、世界各地で数が減少しており、日本でもレッドリストで絶滅危惧種(Ⅱ類)に指定されています。無人島の岩に繁殖する習性のため、沖縄県ではマリンスポーツなどで人間が近づくことによる悪影響が起きています。
顕著なのが渡嘉敷村チービシで、かつては4,000巣を超えていたベニアジサシの巣が、2000年以降は最大でも1,200巣にとどまるなど減少が見られます。この減少の原因を調べるために、繁殖期の観察を実施するとともに、ジオロケーターなどによって越冬地や生態の解明を目指します。
日本ではレッドリストに指定されているサシバが、フィリピンで毎年約5千羽が射殺されているというショッキングな現状を知り、対策に乗り出しました。
2016年には、地元の大学生によって渡りの調査や密猟監視が60日間行われ、2017年は猛禽類を地域資源と位置づけて観察サイトを整備し、3月には地元行政機関とも連携したエコツアーを実施しました。元密猟者がガイドを務めるサシバのココヤシ林のねぐらや熱帯雨林の動植物の観察会、村人との交流会などを行いました。その結果、以前は100人以上が行っていた密猟はなくなり、この3年間でサシバの密猟は根絶にほぼ近づいています。
サシバは里山の生態系の上位に位置し、その生息は環境が良好である証であると言われてきましたが、近年、生息分布が減少傾向にあります。一方、山地でもサシバの生息は確認されており、保全を考える上では、山地での知見を増やすことが重要と考えています。
石川県の南部の山地には、渓谷に沿ってサシバのつがいが連続的に分布しています。2016年の調査では、繁殖成功率(巣立った巣/産卵した巣)は92.9%で、ひとつの巣からは平均2.62羽が巣立ち、非常に繁殖成績がよいことがわかりました。この良好な繁殖成績はサシバが巣に運ぶ餌が鍵になっているのではと注目し、繁殖状況をモニタリングするとともに巣に運ばれる餌の調査を実施する予定です。
ふれあいの里奥出雲公園では、2008年から鳥類の基礎調査を行ってきており、とくにアカショウビンやクロツグミの再捕獲率がとても高いことから、詳細な越冬地や渡りルートを調べてきました。この調査では比較的安価で鳥に負担の少ないジオロケーターを利用してきたのですが、森林性の鳥類では照度データをうまく解析できず難航していました。
そこで昨年度から助成を受けて、高価ですが経度緯度が正確に記録できる小型GPSロガーを装着して放鳥しました。さらに2017年は数を増やして装着と再捕獲による回収を行い、データの精度を高めたいと考えています。
ウトウの世界最大の繁殖地である天売島では、2013年ころまでは、38万巣から5割のヒナが育っていました。しかし2014年からまったくヒナが育たなくなっています。一方、隣の礼文島・トド島のヒナは、比較的肥満度が高く、巣立ちも確認されています。
天売島では、これまでヒナへの餌には、カタクチイワシが多く利用されていましたが、2014年からはまったく利用していないことがわかっています。これは北部日本海で大きな海洋環境変化が起こっていることを示唆していますが、なぜ天売島と類似した環境であると思われるトド島のみヒナが育つのかは不明です。そこで、とど島のヒナへの餌を調べると同時に着水したときの水温データが取得できるデータロガーをウトウに装着し、餌をとる海域を調べ、とど島でヒナが育つ要因を明らかにしたいと考えています。
コアジサシは地面に直接卵を産むため、気づかず人間が侵入するのを防ぐための看板などを立てたり、強烈な直射日光や50℃に達する地表面の熱からヒナを守るためのシェルターを設置したりしています。また、イベントなどを実施して啓発活動も活発に行っています。
こうして安心して子育てできるよう取り組みを進めていますが、コアジサシの営巣地は攪乱がおこりやすい場所にあるため、巣や卵が放棄されることが多いのも現実です。放棄卵を早い段階で見極める方法や人工孵化・育雛、渡りの前に放鳥して群れに返す技術の確立を、動物園などとの連携によって図りたいと考えています。
一時は、絶滅の危機に瀕していたシマフクロウも、国の保護増殖事業で、140羽くらいまで個体数を増やしていますが、まだまだ予断は許さない状況です。
かつて先住民の人々からシマフクロウは村の守り神とされ、ヒトの暮らしの近くに生息しています。近年は、移動分散途中の若鳥が交通事故にあうことが多く、保護対策が急務となっています。若い個体がうまく分散できるように、生息地の分断や孤立化を防ぎ、今、シマフクロウがいない森でも近隣地域から移動してうまく定着できるよう、地元の方々と一緒に将来に向けて環境を整備したいと考えています。
水辺の大型鳥類保護部門 2017年度 助成プロジェクト一覧は こちら
発表者/鈴木 有さん(野田市長)/コウノトリと共生する地域づくり推進協議会
「コウノトリの定着をめざして」(千葉県野田市)
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自然再生の取り組みは、前根本市長が力を注いだ施策ですので、これからも力を入れていきたいと考えています。2012年に多摩動物公園からペアを譲り受け、3年間の繁殖に成功し、2015年から試験放鳥に取り組んでいます。現在、4羽が元気よく各地を移動しており、装着したGPSから位置や速度、高度の情報を得ています。野田市が放鳥した個体が、他の個体と一緒にいるところも見られるようになり、早くペアになり、野田市に帰ってくることを期待しています。
「生物多様性」という言葉は難しいため、コウノトリのようなわかりやすいシンボルが必要と考え、今後もコウノトリがすめる環境づくりに取り組んでいきます。
発表者/前田さん/佐護ヤマネコ稲作研究会
「佐護地区大型鳥類生息環境保全事業~国内外の大型鳥類の生息・繁殖地を繋ぐバードピアアイランドを目指して~」(長崎県対馬市)
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対馬には、ツシマヤマネコをはじめとする固有種がたくさんおり、約300種を超える渡り鳥が記録されています。2013年、ある日突然、兵庫県豊岡市で放鳥されたコウノトリが対馬に飛来しました。私も突然、運転中に飛び出してきたコウノトリに驚いたのですが、よくよく調べると、古くからコウノトリに加えて、ツルやトキも対馬を経由して大陸と日本を行き来していたのです。
湿地である水田環境はツシマヤマネコだけでなく、鳥類にとっても重要な生息環境であることから、農家の方の理解を得ながら冬期湛水やレンゲの裏作などを行い、耕作放棄地の解消と餌場づくりを推進しています。また若者向けにパンフレットやLINEスタンプを制作するなど普及啓発も積極的に展開しています。
発表者/加藤秀夫さん/NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海
トキの舞う能登の里山里海創出プロジェクト(石川県珠洲市)
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私たちは、人とトキが共に生きていける環境整備を目指して活動しています。2016年は、トキの餌となるドジョウが繁殖しやすいように環境を整備し、水田に魚道や江をつくり、生息する水生生物の種類と数の変化を調べました。また、冬鳥や夏鳥の調査も行いました。最近では、地域の人が草刈りなどに協力してくれるようになり心強い限りです。この地域も高齢化して休耕田がたくさんありますが、少しでも活用することで環境に配慮した農業につなげたいと考えています。
地域愛鳥活動助成部門 2017年度 助成プロジェクト一覧は こちら