自然系のメディアなどを見ると,「この生物は絶滅危惧種です」「この生物はレッドリストに載っています」というフレーズをよく見聞きします。いずれのフレーズも対象となる生物に絶滅の恐れがあることを言っており,現在,多くの生物が環境改変や乱獲,外来種といった主に人間の活動の影響で数を減らしています。こうした生物のリストが「レッドリスト」,さらに数を減らした要因や現在行われている対策などをまとめたものが「レッドデータブック」です。
レッドリストは実は1つではありません。最もよく知られているのが,環境省が発行しているものですが,そのほかに都道府県や市町村,国際団体のIUCN(国際自然保護連合)が発行するレッドリストもあります。ここからは環境省のレッドリストを元に話を進めましょう。日本の鳥のレッドリスト(環境省版)が最初につくられたのは1991年のことでした(当時は環境庁)。その後はおおむね5年おきに更新されており(※),最も新しいレッドリストは今年(2026年)に公開された第5次リストです。掲載されている鳥はその絶滅のリスクに応じて8つのランク分けがされ,この中でいわゆる「絶滅危惧種」とされるのは,深刻な絶滅の危機に瀕している「絶滅危惧IA類(CR)」,絶滅の危機に瀕している「絶滅危惧IB類(EN)」,絶滅の危険が増大している「絶滅危惧II類(VU)」の3カテゴリーです。レッドリストは更新のたび,その時々の最新の分類や調査データが反映されています。どのような種が新たに入ったのか,そのランクがどう変わったのかはバードウォッチャーにとって大きな関心事となっています。今回の第5次レッドリストに掲載された鳥は170種にのぼり,30種の鳥が新たに追加,逆に14種の鳥がリストから外れました。
※レッドデータブックはおおむね10年ごとに見直されており,最新版が現在順次公開されています。
新しく30種の鳥がリストに加わり,さらにリストに入っていた種のうち25種のランクが上がったことからもわかるように,現在の日本では絶滅リスクが上がっている種が数多くいます。この中にはコトラツグミやダイトウコノハズク,イイジマムシクイのような,もともと絶滅リスクの高い離島の種もいますが,その一方で身近な鳥と思われているキンクロハジロやゴイサギ,ハマシギといった種がランクに入ったことは,バードウォッチャーに驚きをもって受け止められています。
例えばキンクロハジロは淡水域,海水域の両方で見られる身近なカモで,これまでリスト外でしたが,今回初めて絶滅危惧II類に入りました。同じような環境で見られるホシハジロやスズガモもリストに入っており,これは主にアサリなどの貝類をよく食べる生態が関係しています。湖沼や河川,海岸が開発され,水質が悪くなったことでアサリが減ってしまい,個体数が急減しているとされます。
ゴイサギも身近なサギの仲間で,絶滅に瀕している鳥というイメージはあまりないかもしれません。しかし,同じ小形サギ類であるコサギやササゴイと一緒に今回初めて絶滅危惧II類に指定されました。その要因として,これらのサギの主な食物となる小形の魚がブラックバスなどの大形の外来魚によって減少したほか,サギ類はコロニー(集団繁殖地)をつくる生態をもつため,住宅地付近などにできたコロニーが追い払いの対象になるといった人との軋轢も指摘されています。
ハマシギはこれまでも準絶滅危惧というカテゴリーでしたが,絶滅危惧II類にランクが上がりました。渡りの時期の干潟で大きな群れをつくって飛び回る場面がよく観察できますが,以前より群れの規模が小さくなったという観察者の声を聞きます。ハマシギを含むシギ・チドリ類はその多くが数を減らし,今回のリストでは12種が絶滅危惧種です。渡り鳥の場合,繁殖地・中継地・越冬地いずれかの環境が悪化すれば,絶滅のリスクは上がります。地球規模で渡りをするシギ・チドリ類の場合,日本だけの話では済まないため,国際的な取り組みが重要です。このように,今回のレッドリストでは特に水辺の鳥で絶滅リスクが上がったと判定された種が多いことが特徴の1つです。
多くの鳥の絶滅リスクが上がる中,絶滅リスクが下がった鳥もいます。日本の絶滅危惧鳥を象徴する存在であったトキやコウノトリは,かつて野生絶滅というカテゴリーでしたが,今回のリストで絶滅危惧IB類にランクが下がりました。両種とも日本から野生個体は一度絶滅しましたが,海外から導入した個体を飼育下で繁殖させて放鳥する「再導入」という手法で野外の個体数を増やすのと並行し,これらの鳥の採食場でもある水田で有機農法を行い,食物となる生物を増やすといった環境整備を行うことで,野外での個体群の創出に成功した例です。ただし,こうした里地里山の自然環境の保全は,後継者不足という課題があり,状況は改善していますが,絶滅危惧を脱するところまでは至っていません。
一方,南西諸島の固有種に目を向けると,例えば沖縄島のノグチゲラは絶滅危惧IA類からIB類へ,アマミヤマシギやオオトラツグミに至っては絶滅危惧II類から準絶滅危惧になっています。これらの種はトキやコウノトリのような飼育下繁殖や再導入は行われておらず,生息状況の改善の理由としては林業の縮小のほか,肉食の外来哺乳類であるフイリマングースの駆除の進展や根絶が挙げられています。
レッドデータブックには多くの絶滅危惧鳥の状況がまとめられていますが,気になる記述があります。それは「カメラマンの存在が絶滅リスクを上げている可能性がある」です。例えばアカモズやチュウヒ,オジロワシ,ヒシクイなどで観察・撮影目的の人が生息地や繁殖地に立ち入ることが悪影響として指摘されています。絶滅危惧種=希少な種であり,観察・撮影したい気持ちが出てしまうものですが,対象となる鳥がいなくなってしまっては元も子もありません。野鳥観察が鳥の生息を脅かすことがないよう,自分が今している観察や撮影が将来,あるいは次世代でも続けられることなのか,冷静になって考えるときなのではないでしょうか?
