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2月 外来鳥を観察してみよう 人の手で日本に来た鳥たち
図鑑に出ていない鳥!?

 野外で見慣れない鳥に出会うと図鑑を使って調べますが,時々,なかなか見つからないケースがあります。それは図鑑に載っていないような日本初記録の鳥かもしれませんが,もう一つ,自然に日本に飛来したわけではない鳥,いわゆる「外来鳥」の可能性もあります。外来鳥の場合,図鑑では本編とは別にまとめられていることが少なくありません。今回はバードウォッチングの世界で「かご抜け」と呼ばれることもある,この外来鳥について紹介しましょう。

最もよく知られた外来鳥のドバト。その定着は古く,平安時代にはその記述が残っている。食用や通信目的(伝書バト)で使用されたものが起源とされる
外来鳥とは何か?

 近年,報道などで「外来種」という言葉を耳にする機会が増えました。この外来種の定義は「本来その地域に分布していないが,人為的要因によって持ち込まれた生物」です。よく似た用語に「移入種」「帰化種」もあり,国外からの持ち込みを指すことが多い外来種,国外だけでなく国内の地域間での持ち込みまで含む移入種,外来種のうち自力で繁殖に至れば帰化種など,用語の解釈も含めて厳密にはそれぞれ示すものが異なりますが,ここでは「外来種」という言葉に統一します。
 鳥の外来種=外来鳥ですが,もともと移動能力がほかの生物に比べて高い鳥は,本当に自然飛来ではないのか判断に迷うこともあります。珍しい鳥が見つかった場合,その鳥が渡りの生態をもつかどうか,近隣での飼育情報はないか,外見に嘴や羽が擦れているといった飼育下特有の特徴がないかなどで外来鳥か自然飛来かどうかが判断されます。もし外来鳥だったとしても,その多くは少数であり,野外で安定して生存し,さらに繁殖して世代をつなぐといったことは難しく,一時的に見られるだけというケースが大半です。外来種(鳥)が日本の生態系の中で生存し続けるには,日本の気候に適応し,採食や繁殖環境が確保でき,さらには個体が継続して供給される必要があり簡単ではありません。実際,飼い鳥が由来のベニスズメという外来鳥の場合,1970-80年代には関東でよく観察されましたが,近年は分布が縮小し,見る機会が減っているといいます。

九州で見られるカササギは,16世紀後半に朝鮮半島から持ち込まれたとされるが,自然分布の可能性も否定できない(photo-AC)
かつて多く見られたベニスズメは今ほとんど見られない。生息環境となる河川敷や埋め立て地のヨシ原が工場用地やグラウンドになって数を減らしたとされる(photo-AC)
なぜ日本に持ち込まれた?

 外来鳥の持ち込みに人が関わっている以上,そこには何らかの目的があります(※)。まずは狩猟です。コウライキジやコジュケイといったキジ科の鳥が多く,狩猟の対象として各地に放鳥されて定着しています。ちなみにもともと日本在来の鳥であるヤマドリキジも,狩猟目的で異なる地域の個体を放鳥した場合は,国内外来種(移入種)とみなされます。
 ニワトリやガチョウといった食用などの目的で飼育されていた家禽が外来鳥になるケースもあります。例えばニワトリを野良飼いしたり,害虫や雑草駆除でアヒルを放し飼いにしたときにその個体が逃げ出して定着するというパターンです。
 外来鳥の起源として最もポピュラーなのが,愛玩飼養されていた鳥が逃げ出したというパターン,いわゆるペット起源です。姿形のきれいなインコ類や鳴き声がきれいなソウシチョウやガビチョウなど,日本人は古来よりさまざまな鳥を飼ってきました。特に1960-70年代には小鳥を飼うことがブームになり,アジア近辺だけでなく,アフリカや南米からもさまざまな鳥が輸入され,その中で逃げ出した一部の鳥が定着しました。

※鳥以外の外来種の場合,例えば積み荷に紛れて移動するヒアリなどのように,意図せずに持ち込まれるケースもあります。

狩猟目的で放されたコウライキジは,在来のキジとの交雑も懸念されている(photo-AC)
同じく狩猟目的で放されたコジュケイ。やぶの多い林に生息し「ちょっと来い」とも聞こえる雄のなわばり宣言がよく知られている
シナガチョウは家禽由来の外来鳥で,見た目は原種のサカツラガンに似ている
バリケンは食用として飼育されたものが野生化した。「フランスガモ」という名でも知られる
インコ類はペットとして輸入されていたものが逃げ出して定着した。写真のホンセイインコ(亜種ワカケホンセイインコ)はインドやスリランカを原産とする
ガビチョウは江戸時代から飼育されていたが,現在国内で見られる個体の多くは1970年代の飼い鳥ブームの際に輸入されて逸出したものが由来とされる
外来鳥の何が問題?

 バードウォッチングの世界で外来鳥(かごぬけ鳥)は,自然飛来ではない鳥ということであまり人気がありません。一方,生態系への影響という点で見ると,昨年奄美大島で根絶宣言が出た肉食の外来哺乳類マングースのような,在来種の捕食といった緊急性の高い問題は外来鳥では今のところ見つかっていないものの,影響がないわけではありません。例えば在来の鳥と同じものを食べたり,似たような環境で繁殖する場合に競争が起こり,在来の鳥の生息を圧迫することにつながります。実際,外来鳥のホンセイインコと在来種のムクドリが,営巣場所の樹洞を巡って争うというケースが報告されています。また都市部でのドバトの増加がその捕食者のオオタカを誘引し,ムクドリやキジバトといった在来の鳥も捕食されるケースが増えるといった間接的な影響も指摘されています。人間生活に関係することでいえば,八重山諸島に定着したインドクジャクによる豆類や野菜への農業被害,アヒルやアイガモと在来のカモ類との交雑で起きる遺伝子汚染などもあります。
 2004年に環境省は外来生物法(※)という法律を作り,生態系や人間社会への影響が大きな外来種を指定して対策を進めています。外来鳥もソウシチョウやガビチョウなど,10種以上が指定されています。こうした法律の存在や,外来種を駆除する報道などを通して「外来種(外来鳥)=悪」とする風潮が広まっていることも事実です。しかし,外来種自体は人間の都合で移動させられた存在であり,問題の本質は人間にあります。また,外来種がいない生態系の維持が理想とはいえ,外来種の根絶には大変な労力が必要であり,さらに生態系に定着した外来種を根絶することで,生態系に思わぬ影響が出る可能性も指摘されています。私たちバードウォッチャーができることは,まず新たな外来種を生み出さないこと,そしてふだんの観察を通して,外来種が生態系の中でどんな影響を与えているかを注視することではないでしょうか?

※正確には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」

姿や鳴き声が好まれたソウシチョウは現在も分布を広げている。数が増えた地域では在来種との繁殖場所の競合や捕食者の誘因が懸念されるため,外来生物法の重点対策外来種と特定外来生物に指定されている
繁殖期のコブハクチョウはほかの水鳥や人間に対して非常に攻撃的になるほか,レンコンや稲への食害もあり,外来生物法の総合対策外来種に指定されている