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TOP > トピックス 8月 ホトトギスは、鳥か? 植物か?
8月 ホトトギスは、鳥か? 植物か?

 鳥の名前のなかには、他の生きものと同じ名前を共有しているものが少なからずあります。「異物同名(いぶつどうめい)」というのですが、生物の専門家でも思わぬ勘違いのもとになるという、生きものの名前についてご紹介します。

「目には青葉 山ホトトギス 初ガツオ」 山口素堂

 江戸時代の俳人、山口素堂やまぐちそどうの俳句です。初夏になるとニュースなどで取り上げられるので、皆さんもお聞きになったことはあると思います。
 ところで、似たようなこんな句はご存知ですか?

「目には紅葉 山ホトトギス 戻り鰹」

 最初の句には青葉の季節の「ホトトギス」。後者は紅葉の時期の「ホトトギス」。
 ホトトギスは、夏鳥で、5月ごろから9月ごろまで見ることができますから、戻り鰹の秋口にも見ることはできます。しかし、この頃のホトトギスは繁殖シーズンが終わっているため、見つける手がかりとなる特徴的な鳴き声を聞くことはほとんどないため、姿を確認することは大変困難となります。実際、「ホトトギス」は、俳句の世界では夏の季語とされています。
 それでは、秋の季語とされる「紅葉」と一緒に読まれている「ホトトギス」の正体は?

 その正体は植物のホトトギスです。
 全く違った生きものなのに同じ名前を共有しているなんて不思議ですね。では、どうしてそんなことが起こったのでしょうか?

鳥のホトトギス。腹部に横斑が見られる(三宅島 撮影/岩本多生)
鳥のホトトギス。腹部に横斑が見られる(三宅島 撮影/岩本多生)
植物のホトトギス。9~11月に開花する(10月 千葉市 撮影/小出可能)
植物のホトトギス。9~11月に開花する(10月 千葉市 撮影/小出可能)
ホトトギスの名前の由来

 最初の俳句に出てきた鳥のホトトギスですが、漢字では「杜鵑」と書くことが多いようです。この名前の由来は、鳴き声からつけられています。
 ホトトギスの鳴き声は「キョッキョ、キョキョキョ」と表され、それを昔の人たちは「ホットホトギ」と聞きなし、それに鳥を表す接尾詞の「ス」がついて「ホトトギス」となったそうです。ホトトギスは、カッコウ科の鳥ですが、日本で見ることのできる同科のなかでは小型で、腹は白く、灰黒色の横斑が見られます。

 植物のホトトギスのほうは、ユリ科で林縁や傾斜地のあまり日当りのよくないところに生育します。花の咲く時期は秋で、花びらにある斑紋が鳥のホトトギスの胸の斑紋と似ていることからその名がつけられたそうです。この名前をつけた人は、よほど鳥のことも知っていたのでしょう。そして、このことから、鳥のホトトギスの方が植物のホトトギスよりも先に名前がつけられたのだろうと想像できますよね。

どちらも美味しい!

 縞鯵。この漢字は読めますか?「シマアジ」と読みます。
 この魚は、身体に黄金色の縞があることから縞鯵と呼ばれていますが、伊豆諸島や太平洋岸の沿岸の島々で多く水揚げされることから「島鯵」と書くこともあるそうです。
 皆さんがよく食べるアジ(マアジ)よりも体高が高くてより平べったい体形で、体の側面中央に1本の明瞭な黄色線があるのが特徴です。東太平洋を除く全世界の温帯域に生息していて、沿岸の底層で小魚やゴカイなどを食べています。アジ類のなかで最も美味とされる高級魚です。

 鯵は古い漢字で「アジ」と書きます。この(つくり)は「生臭い」と言うことを示す言葉だそうです。また、アジは、3月がおいしいことから「参(3の大字)」となったと言う説もあります。

注:大字とは、法的な文書(戸籍や領収書など)に漢数字の替わりに用いられる文字のこと。

 一般的にアジと言えば魚、という印象が強いのですが、鳥の世界にも「アジ」がいるのをご存知ですか。

シマアジのオス。肩羽の一部が縞模様になっている(千葉県市川市 撮影/今井仁)
シマアジのオス。肩羽の一部が縞模様になっている(千葉県市川市 撮影/今井仁)

 マガモの仲間に「シマアジ」と言う名前の小型のカモがいます。日本に飛来するカモ類では珍しく、越冬するために日本に飛来するのではなく、多くのシギ・チドリ類のように春と秋に日本に立ち寄る旅鳥という位置づけのカモです。シマアジのオスは、眼の上から後頸に伸びる白く太い眉線と、肩羽の一部が細く長く白黒の縞模様になっているという特徴があります。漢字では「縞味」と書き、「縞」は、雄の羽の模様から来ていると言われています。

 「味」については、近縁種であるトモエガモをさす古い名称の「味鴨」から来ているようです。古くは食されることがあって、おいしい鳥とされていたのかもしれませんね。
 魚のアジも鳥のアジも食べると言うことで意外な共通点があったのですね。

 そのほかにも、鳥のシマアジの由来解釈としては、「シマ」は珍しいという意味の接頭語。
「アジ」はトモエガモの古い名称。そのため、珍しいトモエガモという意味であるという解釈もあります。

魚のシマアジ。シマアジと言えば、旨い魚を思い浮かべるが・・・・・・(写真/:ピクスタ)
魚のシマアジ。シマアジと言えば、旨い魚を思い浮かべるが・・・(写真/ピクスタ)
鳥のシマアジ。鳥の世界にもアジがいる(千葉県市川市 撮影/今井仁)
鳥のシマアジ。鳥の世界にもアジがいる(千葉県市川市 撮影/今井仁)
小耳にはさんだフクロウのはなし
耳ようなものがあるフクロウをミミ<ruby><rb>ズク</rb><rp>(</rp><rt><b>・ ・</b></rt><rp>)</rp></ruby>と呼ぶ。写真はトラフ<ruby><rb>ズク</rb><rp>(</rp><rt><b>・ ・</b></rt><rp>)</rp></ruby>(長野県南牧村 撮影/今井仁)
耳ようなものがあるフクロウをミミズク(・ ・)と呼ぶ。写真はトラフズク(・ ・)
(長野県南牧村 撮影/今井仁)

 最近、幸福を呼ぶとしてもてはやされるふくろうグッズ。福朗や不苦労という当て字からきているようです。よく見ると頭に耳のようなものが見えるフクロウもいます。この耳のようなものがあるフクロウをミミズクと呼びます。ミミズクと呼ばれるフクロウの大部分は、「ミミ」の部分が略されて、コノハズク(・ ・)とかトラフズク(・ ・)と言うように「ズク」のみが名前に残されている種類が大部分です。

 そのなかで、名前にミミズクが残された種として、コミミズクという鳥がいます。コミミズクは、日本には冬を過ごすために河川敷や埋立地など開けた環境に飛来します。 名前の由来としては、ミミズクのなかでも耳のようなものが、より小さく痕跡程度しか見られないため「コミミズク(小耳木兎)」と呼ばれています。

鳥のコミミズク。耳のようなものは痕跡程度しか見られない(撮影/安齊友巳)
鳥のコミミズク。耳のようなものは痕跡程度しか見られない(茨城県神栖市 撮影/安齊友巳)

 小耳と言うのは見ての通り小さい耳。木兎(ずく)と言うのは、フクロウの仲間をさす古い名称です。この耳のようなものは「耳」ではなく、羽角(うかく)という羽であって、ここで音を聴いているわけではありません。鳥が進化をするなかで偶然獲得した容姿がそのまま名前になったという鳥です。

 このコミミズクと同じ名前をつけられた昆虫がいます。こちらのコミミズクは、大きくはカメムシの仲間(セミやアブラムシ、アメンボなども含まれるグループで、針状の口を持ち植物の汁や動物の体液を食べ物とするのが特徴)に属する昆虫です。コミミズクは体長約1cmで、クヌギやコナラなどのブナ科の植物上で見ることができます。

虫のコミミズク。虫のミミズクより小さいのが名前の由来で、突起はない(撮影/石塚 新)
虫のコミミズク。虫のミミズクより小さいのが名前の由来で、突起はない(撮影/石塚新)

 また、コミミズクの近縁種には「ミミズク」という昆虫がいます。ミミズクは体長約1.5cmで、コミミズクと同じようにブナ科の植物で見られる昆虫です。このミミズクの成虫の前胸部分には左右に突き出た一対の耳の様な突起があり、正面から見ると鳥類のミミズクの顔のように見えることからミミズクという名がつけられました。
 となると、コミミズクの成虫の前胸部分には、ミミズクより小さな一対の突起が……ない。実はコミミズクの「コ」はミミズクより体長が「小さい」ということが由来となっており、ミミズクに見られるような目立つ耳状の突起はないのです。

虫のミミズク。確かに耳の様な突起が見える(撮影/石塚 新)
虫のミミズク。確かに耳の様な突起が見える(撮影/石塚新)

 このように、同じ名前であっても鳥のコミミズクは、ミミズクの名前の由来となった「羽角」が小さいこと、昆虫のコミミズクは、種としての名前の由来となったミミズクより大きさが小さいことがそれぞれ由来となっています。

 動植物の名前は、容姿などが似ていることから同じ名前がつけられたり、違う意図を持ってつけられた名前が偶然同じになったものなど、さまざまです。今回取り上げた他にも同じ名前を共有する動植物がいます。どんな生きものが同じ名前で呼ばれているのか、そしてその由来は?そんなことに気をつけて図鑑を見てみると、また違った面白いことを発見できるかもしれないですよ。みなさんも調べてみてはいかがでしょうか?

(一般財団法人自然環境研究センター事務局 鈴木隆)

6月 べランダ☆バードウオッチングの続報

前回のコンテンツでは、高層階のベランダでのバードウオッチングの様子をお伝えしました。その後、ベランダに設置した自動撮影カメラで、スズメがカタバミの実を食べる様子が撮影できたので、後日談として動画をupします。


ベランダのカタバミの実を食べに来たスズメ(千葉県市川市 撮影/鈴木隆)

6月 ベランダ☆バードウォッチングはこちら