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フクロウという鳥のグループがあります。分類の点では「フクロウ目」で,日本では現在11種が知られています。タカ目やハヤブサ目と並び,主にほかの動物を捕食する「猛禽類」ですが,こうした鳥としての特性とは別のところでフクロウ類の知名度は非常に高いです。バードウォッチャーでなくても,その姿形は一般の人にも知られているといってよいでしょう。「不苦労」「福来郎」という当て字が示すように,縁起のよい鳥として人気がありますし,さらに西洋では知恵の象徴とされることもあり,鳥の中ではよいイメージをもたれているといえます。今回はそんな人気者のフクロウ類を紹介しましょう。
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改めて,フクロウの姿を思い浮かべてみましょう。普通の鳥と比べて,いろいろと奇妙なところに気づきます。まず,平たくて丸い顔の中に真正面を向いた眼が並び,「顔」をしっかり認識できます。嘴があまり目立たないこともあって,まるで人の顔のようです。一般的な鳥の目は顔の両サイドについており,長い嘴が目につき,そもそも顔が平たくないので「人っぽい」という印象を受けることは皆無でしょう。これがフクロウの人気のポイントですが,別に人に好かれるためにこのような姿になったのではありません。まず目が正面を向いているのは,フクロウ類が目に頼って獲物を捕らえるからで,正面向きの目は対象との距離感を正確に測ることができます。そうはいっても主な活動時間は夜間なので目だけに頼ってハンティングはできません。頼りになるのは耳です。人の顔のように見えるフクロウ類の平たい顔面は正しくは「顔盤(がんばん)」という構造で,パラボラアンテナのように音を集める効果があるといいます。このように,一見すると人の顔のように見えるフクロウ類の顔は,人とはまったく違うライフスタイルの結果できたといえます。もちろんフクロウ類ならではの顔の特徴もあり,例えば眼球を動かせない代わりに首をほぼ360度回すことができたり,聞こえてくる音の距離感をつかむために正面から見たときに左右の耳の高さが異なります。
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ここからは,比較的出会いやすいフクロウ類を紹介します。まず最初はフクロウ類の代名詞ともいえる「フクロウ」です。九州よりも北の地域に留鳥として生息します。全長50cmくらいでフクロウ類の中では中形。頭は丸っこく,ハート形の顔(顔盤)が印象的です。「奉公,ボロ来て奉公」と聞きなしされる,「ホゥホゥ,ゴロスケホゥホゥ」という声が有名で,少し広い緑がある場所だと,住宅地でも聞こえてくることがあります。主にネズミを食べるのですが,青森ではリンゴの木をかじるネズミを食べる益鳥として,農家が巣箱を架けてフクロウを招いています。また近年では都会への進出も話題になっています。フクロウは主に樹洞に営巣するため,太い樹木が必要なのですが,例えば東京都心の場合,戦後に植栽された木が生長して太くなり,営巣できるようになったそうです。
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次に紹介するのはアオバズク。初夏,青葉のころに飛来するということが名前の由来になっており,日本には夏鳥として飛来します(南西諸島では留鳥)。平地の森林や神社などの鎮守の森でも見られる身近なフクロウ類の一つで,主には街灯に集まるコウチュウ(甲虫)やガといった大形の昆虫を食べる昆虫食なので,街灯の下に虫の死がいが落ちていれば,アオバズクが近くにいる可能性があります。ただ,近年は減少が心配されており,その理由として越冬地の環境悪化や獲物となる大形昆虫の減少のほか,営巣に適した,樹洞のできそうな太い木が減ったことも挙げられています。フクロウも同じように樹洞に営巣しますが,カラスの古巣といったオープンな場所でも営巣できるフクロウと違い,アオバズクは樹洞がないと営巣できないため,大木の減少の影響をより強く受けるといいます。
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フクロウやアオバズクが主に森林で見られるのとは異なり,コミミズクは冬の河川敷や農耕地といった平地で見られるフクロウ類です。低い草地の上をすべるように飛び,急反転してネズミや小鳥を捕まえるハンターですが,多いときには1つの河川敷に10羽以上が越冬に飛来することもあり,まだ明るい夕方の時間から活動を始めることもあって,シーズンには多くのバードウォッチャーを集める人気のフクロウ類です。
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生息地はトカラ列島以南の南西諸島全域ですが,現地ではかなりよく見られ,街灯に飛来する昆虫やトカゲなどの小動物を食べる小形のフクロウ類です。繁殖期の夜になると,森林だけでなく,民家そばでも声が聞こえてくることがあり,「コホッ,コホッ」とよく通る声で鳴くので,声のする方の木や電線を見ると見つかります。なお,沖縄県の南大東島に暮らす個体群(亜種ダイトウコノハズク)は島に生息する個体(約570個体)の9割が22年にわたって個体識別されており,どの個体とどの個体がペアになり,親がどの個体なのかまでわかっているという,世界的にも珍しい研究フィールドとなっています。
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