前回は水面に浮かんでいる鳥を紹介しましたが,水辺ではもっといろいろな鳥が見られます。特に目立つのは,長い首と足,大きな体のサギ類です。動きはそれほどすばやくないので,初心者にも観察しやすく,見どころの多い鳥です。今回はこのサギ類の話をしましょう。
「水辺にいて,首と足の長い大きな鳥」。そう聞くと,ツル(鶴)を思い浮かべる人もいるかもしれません。実際,サギ科の鳥であるアオサギを見て「ツルがいる!」と話す子どもに会ったことがあります。サギとツル,この両者は現在の分類では「ペリカン目サギ科」と「ツル目ツル科」という,かなり離れた間柄になります。分類だけでなく,その生態もいろいろと違いがあり,サギは樹木や電線といった細いものに止まることができますが,日本で見られるツルは木に止まることはありません(※)。飛んでいる姿もサギは首をS字に曲げて飛ぶことが多いのに対し,ツルはまっすぐ前に伸ばして飛びます。また日本でツルを観察できる地域は例えば北海道のタンチョウや鹿児島県出水(いずみ)平野のマナヅル・ナベヅルのようにある程度限られています。
「でも,木に止まるツルの絵を見たことがある」――そういう人もいるかもしれません。確かに日本画の中には松に止まるタンチョウといった絵があるのですが,これはおそらくコウノトリを見間違えたのだろうというのが定説です。コウノトリはツルやサギと同じく「水辺にいて,首と足の長い大きな鳥」なのですが,細い場所に止まることができます。体も白・黒・赤とタンチョウに近いので,双眼鏡もなかった時代に,木に止まるコウノトリをタンチョウと見間違えるのは仕方がないことでしょう。ちなみにコウノトリも分類上は「コウノトリ目コウノトリ科」というグループに入り,ツルやサギとはかなり離れた間柄です。分類は違っていても,水辺で小動物などをつまみ取る生態が似ているため,体形が似てきたのだと思われます。こういった現象は収斂(しゅうれん)と呼ばれます。
※世界にツルは15種類いますが,アフリカに生息するカンムリヅルとホオジロカンムリヅルの2種は木に止まることができます。
サギの話に戻りましょう。図鑑でサギ類を見ていると,名前に2つのグループがあることに気づきます。ダイサギやアカガシラサギといった「サギ」と付く鳥と,ゴイサギやササゴイ,ヨシゴイのように「ゴイ」とつく鳥です。実際日本で記録されている20種のサギ科の鳥を見ると○○サギは11種,○○ゴイまたはゴイ○○は9種とほぼ同じです。サギはグループの名称なのでわかりますが,ゴイとは何でしょう?これは平安時代の貴族の官位「五位」に由来します。平家物語などの古典には,当時の帝の命に従って逃げることなくおとなしく捕らわられたサギに対して,感銘した帝が五位の位を授けたという話があり,それに由来するという説が有力です。由来はともかく,「サギ」と「ゴイ」は見た目にも少し違いがあり,「ゴイ」と名の付くサギはたいてい,首が太短くずんぐりとした体形をしています。
また,サギのよく知られた呼称に「シラサギ」があります。世界遺産に登録されている兵庫県の姫路城の愛称「白鷺城」でも有名ですが,これはシラサギという種類のサギがいるのではなく,体が白いサギをまとめて指す言葉で,多くはダイサギ,チュウサギ,コサギを指します。この中で特にチュウサギは見分けるのが難しく,くちばしや首の長さがダイサギやコサギに比べて短めであること,チュウサギは夏鳥(ほか2種は留鳥や冬鳥)なので冬はほとんど見られないことなどがポイントなのですが,ベテランのバードウォッチャーでも間違えることがあります。また,体の白いサギはこの3種以外にもいて,例えばアマサギの冬羽や,珍鳥としてバードウォッチャーの注目を浴びるカラシラサギも全身白色です。少し変わったところではクロサギというサギには「白色型」という別タイプがあり,その名の通り真っ白な体をしています。シラサギ一つとっても,いろいろな見どころがあります。
サギ類を観察するうえで最も注目の季節は春です。繁殖期にパートナーを探す際,「婚姻色」というふだんと少し違う姿になります。例えばくちばしが色彩鮮やかに彩られたり,足の色が変わったり,飾り羽が発達します。この婚姻色はオスもメスもなるので,婚姻色となるサギのパートナー選びは,オスメス双方からのチェックが入ることになります。ただし,「婚姻色」になる時期は種によって異なり,さらにその期間も半月~1か月とかなり短いです。狙って婚姻色を見るのであれば,例えば本州中部でアオサギだと3~4月,コサギなら4月上~中旬が目安。春先にサギ類に会ったらくちばしなどをしっかり観察するか,あるいは集団繁殖地(コロニー)で探すという方法があります。
サギは水辺の鳥の代表ともいえる存在です。双眼鏡などを使えば,羽や嘴など体の細かい部分までハッキリ観察できるので,ぜひ今回紹介した見どころを実際に見てみてください。