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10月 秋冬はモズをじっくり見てみよう ニックネームの多い鳥

 「小さな猛禽」「声真似の名人」「田園の殺し屋」「秋の高鳴き」「はやにえ」――これらはすべてモズという鳥を語るときに使われる言葉です。これほど多くの呼び名をもつ鳥はそういません。呼び名の多さはすなわち,モズという鳥が私たちにとって身近な存在であることを示していると言えます。今回はこのモズを紹介しましょう。

1-モズは杭の上や枝先など,目立つところに止まるので見つけやすい
2-モズの仲間(モズ科)は日本では8種いるが,モズ以外はなかなか見る機会がない。写真はオオカラモズ
秋の風物詩,モズの高鳴き

 多くの人がモズの存在を意識するのはちょうど今くらいの時期,9~10月です。このころに公園などの緑地や郊外の農耕地などを訪ねると「キィーッ,キィーッ,キッキッキッ」や「ギチギチギチ」という大きな声が聞こえてきます。声の主を探すと,木のてっぺんや電柱,あるいは杭の上などでスズメよりひと回り大きな鳥が鳴いています。これがモズです。頭でっかちな丸っこい体に少し長めの尾羽をもち,その尾羽をクルクルと回しています。もう少しよく観察すると,まるでサングラスのように眼の上に黒い線があるのがオス,線が茶色っぽいのがメスと見分けられます。
 秋にモズが発する目立つ声は「高鳴き」と呼ばれ,秋の声としてバードウォッチャー以外にもよく知られているため,ドラマなどで秋の季節感を出すために流されることもよくあります。正体はわからなくても聞いたことがある人が多いでしょう。モズがこの声を出す目的はなわばり宣言です。多くの鳥は主に繁殖期,つがいで一定のエリアをなわばりとして確保しますが,モズの場合,越冬期にオスとメスがそれぞれ確保するという点で普通のなわばりとは異なり,特別に「採食なわばり」と呼ばれます。その名の通り,食物の少ない冬の時期に備えて作られるため,オスとメスがなわばりを巡って争うこともあります。この採食なわばりは繁殖期になると解消され,改めてつがいで繁殖用のなわばりを作ります。モズは留鳥または漂鳥とされ,平地で繁殖することもあれば,繁殖期に標高の高い地域へ移動することもあります。

3-モズは外見で雌雄がわかりやすい。オスは目を通る線が黒くてはっきりしている
4-メスは目を通る線が茶色で,腹にうろこ模様がある
 
5-高鳴きをするオス。大きな声なので,遠くからでもよく聞こえる
6-モズの巣立ちビナ
 
モズの代名詞,はやにえ

 モズには「小さな猛禽」「田園の殺し屋」といったちょっと物騒なニックネームがありますが,分類面ではスズメキビタキといった小鳥が属するスズメ目で,鋭いくちばしや爪を備えた猛禽類のハヤブサ(ハヤブサ目)やタカ(タカ目)などとは離れています。では,なぜ猛禽と称されるのか,それはモズの食性に理由があります。モズはもっぱら肉食で,英名でも「butcher bird」,すなわち肉屋の鳥と呼ばれます(※1)。捕食対象はバッタやカエルといった小動物だけでなく,自身とほぼ同サイズ,あるいはより大きいことさえあるスズメなどの小鳥やネズミ,モグラといった哺乳類までも捕らえることがあります。また,双眼鏡などでよく観察するとくちばしはかぎ状で,しかも上のくちばしに「嘴縁突起(しえんとっき)」という突起があり,獲物の肉を切り裂くのに役立ちます。実はハヤブサにも同じ突起があり(※2),モズのくちばしは肉食の鳥のものであることがわかります。
 モズといえば「はやにえ」をイメージする人も多いでしょう。はやにえとは捕らえた獲物を枝先や有刺鉄線などとがったものに串刺しにする行動です。モズ類全体に見られる行動ですが,捕らえた獲物を生きたまま串刺しにしたり,ひからびた獲物が枝に刺さったまま残っていたりと,ちょっと残酷に見えるのですが,意味もなくはやにえをつくっているのではありません。はやにえの機能については,なわばりの目印,冬の保存食,獲物を固定して食べやすくするなど多くの仮説が立てられてきました。そして近年,日本発の研究でモズは繁殖期の直前にはやにえを消費し,はやにえを多く消費できたオスはメスに求愛するときの鳴き声の魅力が高まり,結果として繁殖に成功しやすいということがわかりました。はやにえには冬の保存食であると同時に,オスにとっては繁殖の成功率を高める機能もあることが示されたのです。
※1 モズの英名は図鑑などではBull-headed Shrikeとされることが多い
※2 嘴縁突起はモズとハヤブサだけに見られ,タカにはない

7-モズのくちばし。カギ状で先に突起がある
 
8-ハヤブサの仲間,チョウゲンボウのくちばしもカギ状で先に突起がある
9-枝に止まって獲物を探す。獲物を見つけると急降下して捕らえる
10-捕らえたバッタを枝に刺してはやにえをつくっているところ
11-はやにえの例(1)。ケラと思われる
 
12-はやにえの例(2)。アメリカザリガニの頭部と思われる
冬のバードウォッチングの中心になる鳥

 ここまで紹介した以外にも,モズは「百舌」という漢字表記の通り,ほかの鳥の鳴き真似をするなど,観察の見どころが多い鳥です。初心者にも見つけやすく,はやにえでモズが食べているものを観察したり,開けた環境で暮らすことを活かして冬のなわばりを個体追跡で調べたりと,ただ見たり,写真を撮ったりする以外にもさまざまな観察の楽しみ方ができる鳥です。この冬は高いところに止まって尾羽をクルクルと回すユニークな鳥,モズに注目してみませんか?

13-モズは飛ぶと翼の白い部分がよく目立つ
14-有刺鉄線に止まるメス。付近を探せばはやにえが見つかるかも