人に男女があるように,鳥にも男(オス)と女(メス)があります。雌雄の違いというと,例えば卵を産むのはメスというような「役割の違い」もありますが,バードウォッチャーにとってより身近でわかりやすいのは,派手な装いをしているオスと,地味な姿のメスといった「外見の違い」でしょう。こうした鳥の雌雄の外見の違いには,いろいろなパターンがあります。今回はそれを紹介しましょう。
冬の時期に水辺で群れているカモを見ると,派手な色彩の個体と,そのそばに茶色や灰色がベースの地味な個体が並んでいるケースがよくあります。派手なほうはオス,地味なほうはメスで,多くのカモ類は雌雄の差が見た目でわかりやすいグループです。また,夏の森林で美しいさえずりを響かせるオオルリやキビタキ,冬に平地で身近に見られるジョウビタキやルリビタキもオスのほうが青や黄色,オレンジ色の派手な姿で,メスはそれに比べて地味です。色味の違いだけでなく羽の形状が異なることもあります。例えば夏鳥のサンコウチョウはオスの尾羽が非常に長く,ツバメもオスのほうが燕尾がはっきりしています。キジやヤマドリはオスが長い尾羽をもつだけでなく,色味もメスに比べて鮮やかなので,ひと目でオスかメスかがわかります。
メスが地味な姿である理由は,安全のためと一般的にいわれています。例えばメスが卵を温める(抱卵)鳥の場合,その場を動くわけにはいかないので目立たない色彩の姿のほうが生存率は上がります。逆にオスが派手になった理由としては,そのほうがメスに受け入れられる,つまり「モテるから」という説があります。派手な姿を維持するためには,体の状態がよくなければなりませんし,外敵に目立つ姿でも生残できる強さの象徴にもなるため,そういったオスはメスに選ばれやすいのです。
カモ類のように体全体で雌雄の差があれば,遠目や肉眼でも区別ができます。一方,体の一部に違いがあって,双眼鏡などでよく観察しないと区別ができない鳥もいます。先ほど挙げたカモ類の中で,カルガモはその代表でしょう。最も身近なカモでもあるカルガモは,上尾筒と下尾筒(尾羽を上下で挟む羽)の模様で雌雄を見分けられるのですが,日が当たって羽がよく見えるなど,観察条件がよくないとわかりません。もう少しわかりやすい例はカワセミです。カワセミは体で雌雄は見分けられませんが,メスは下の嘴がオレンジ色をしているので,嘴が見えれば雌雄がわかります。また,多くのキツツキ類はオスの頭のてっぺんが赤いので見分けられますが,最も身近なキツツキのコゲラは赤い羽の部分が極端に小さいため,よく観察しないと見えないことも多々あります。
こういった姿(羽衣)の違いだけでなく,体の大きさが雌雄で異なるケースもあります。身近なところでは春に「ホーホケキョ」とさえずりを響かせるウグイスで,その全長はオスが16cm,メスが14cmと小鳥サイズにしては違いが大きく,慣れれば片方だけ出ていても雌雄が見分けられるかもしれません。また,「蚤(のみ)の夫婦」は小柄な夫と大柄な妻の夫婦を指す言葉ですが,鳥の世界にもウグイスとは逆にメスのほうが大きい鳥がいて,その代表はオオタカなどのタカの仲間です。タカの場合は,その体格の差を活かしてメスは大きな獲物,オスが小さな獲物を捕らえることで,限られた獲物を効率よく分けあっていることが知られています。
最も身近な鳥であるスズメ,ヒヨドリ,ムクドリ,メジロなどは,オスとメスが見た目ではまったくわかりません。図鑑を見てもこれらの鳥は「雌雄同色」あるいは「雌雄ほぼ同色」とあり,外見でオスとメスを識別できないことを示しています。こういった鳥はかなり多く,カモ類を除く多くの水鳥類(サギ類やシギ・チドリ類など)や,陸鳥でもフクロウ類やカラス類は雌雄同色です。この場合,例えば交尾の瞬間(オスがメスの上に乗る)など行動を見ない限り,雌雄を見分けることはできません。
また,時期によって雌雄の区別ができない鳥もいます。例えばカモ類は冬だと雌雄を簡単に見わけられますが,秋に渡ってきた直後,オスは「エクリプス」というまるでメスのような地味な姿です。ルリビタキも成鳥のオスは青い姿ですぐにわかりますが,若いオスはメスとほぼ同じ姿をしているため,熟練のバードウォッチャーでも見分けがつかず,若いオスとメスをまとめて「雌タイプ」と呼ぶことがあります。カモ類のオスにメスと同じような姿の時期があるのはメスと同じ地味な姿で外敵に見つかりにくくするため,またルリビタキの若いオスがメスのような姿でいるのは成鳥のオスに繁殖の競争相手とみなされないようにするためといわれています。