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この連載では以前,バードウォッチングの楽しみ方の1つとして「鳥を撮影する」ことを挙げました。ひと言で「鳥を撮影する」といっても,今はさまざまなスタイルがあり,機材の扱いやすさや撮影できる写真にも違いがあります。今回は代表的な3つの撮影スタイルを紹介しましょう。
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今や生活必需品ともなったスマートフォン(スマホ),そのカメラ機能は格段に進歩しています。かたや鳥見道具でもある双眼鏡や望遠鏡,それらの接眼レンズにスマホのレンズ部を当てて撮影するのが「スマスコ」です。野鳥撮影にはコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)を同じように双眼鏡や望遠鏡に接続する「デジスコ」という撮影法がありますが,それをスマホで行います。そのメリットは手軽なこと,ふだん持ち歩いているスマホを使うため追加で必要なものは少なく,また観察道具がそのまま“望遠レンズ”になるので,観察との相性も抜群です。注意点はスマホと双眼鏡・望遠鏡との接続で,手で押し当てることもできますが,少し手元が動いただけでも対象を見失ってしまいます。固定用のアダプターもありますが,専用設計のものを除き,うまく鳥を視野に捉えるのにはコツが必要です。そのため,安定して止まっていたり,動きのわかりやすい鳥には有効ですが,飛んでいる鳥や動きの激しい小鳥は苦手です。とはいえ,最近の高画質のスマホカメラを使えば,驚くほどきれいな野鳥写真を手軽に撮影できるほか,スマホの通信機能を利用すればSNSへの投稿なども簡単です。今や最も手軽な野鳥撮影の方法といえるでしょう。
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スマスコは手軽な撮影方法ではありますが,やはりカメラで鳥を撮影したい,そんな人にオススメしたいのが「超望遠コンデジ」です。一般的にコンデジといえば,ズーム倍率が3~5倍といったものが多いですが,超望遠というだけあって,その倍率は20倍や50倍,ものによっては100倍を超える機種もあります。これだけの倍率があれば,遠くの小鳥もかなり大きく撮影できますし,スマスコのような接続の手間が必要ない分,動きの速い鳥や飛んでいる鳥にもある程度は対応できます。カメラ自体はコンパクトデジカメというにはやや大柄ではありますが,これ1台あれば遠くの鳥から,足元の花,あるいは風景まで撮影対象にできるというオールラウンダーな活躍をしてくれるのが最大の魅力です。注意点としては,高倍率ズームを多用しすぎると画質低下の大きな原因となる手ぶれを起こしやすいこと,また,スマスコよりは画質面で優れているものの,次に紹介する一眼カメラに比べれば及ばない点もあるので,撮った写真を大きく引き延ばしてプリントするのはやや苦手です。でも,カメラを使って鳥を撮影するという喜びを少ない投資で得ることができるので,初めて野鳥撮影をしようという人がまず手に取るカメラになっています。
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野鳥観察中に見かけるまるで大砲のようなカメラ,これがアマチュアからプロまで本格的に野鳥撮影を楽しむ人がもつ「一眼カメラ」です。この中には「一眼レフカメラ」と,それとは仕組みが異なり,ややコンパクトな「ミラーレス一眼カメラ」がありますが,両者を一緒に解説します。上で紹介した超望遠コンデジからのステップアップとしてこのカメラを入手する人も多く,その最大のメリットは何といっても高画質であること,大きく引き延ばしても羽毛の1枚1枚まで見えるような精細な写真を撮影できますし,止まっている鳥から飛んでいる鳥まで,すべての野鳥撮影シーンに対応できる優れた機材といえます。その反面,カメラとレンズ一式をそろえるとかなり高額な買い物になり,その投資は時に車の購入に例えられるほど。また,意外かもしれませんが望遠の倍率で見ると超望遠コンデジのほうが優れている場合もあり,きちんと観察して鳥にうまく近づけないと,思ったよりも鳥が大きく撮影できないという面もあります。それでも,使いこなせればプロ顔負けの写真を撮影できますし,レンズ交換や細かい撮影機能・設定を活かすことで,撮影できる野鳥写真の表現の幅はスマスコや超望遠コンデジとは比べものにならないくらい大きいものです。野鳥撮影における,1つの到達点ともいえる機材でしょう。
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今回は現在の野鳥撮影で多く使われる「スマスコ」「超望遠コンデジ」「一眼カメラ」の3つを簡単に紹介しました。どの機材にもよい点と注意点があり,それらを理解したうえでどの機材を選ぶかを判断する目が必要となります。自分がどんな野鳥撮影をしたいのか,日々の観察の中でイメージをふくらませ,それを実現できる機材を選べば,満足のいく野鳥撮影に近づけるでしょう。
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