以前,台湾に探鳥取材に行ったとき,「これから台湾固有のキジを見に行く」とガイドが話した途端,周りにいた外国人バードウォッチャーから「endemic ! endemic !」と歓声があがったことがありました。この「endemic」は「その地方に特有の」という意味で,この場合は固有種を指します。その土地でしか見られない鳥との出会いは,とてもエキサイティングな経験ですが,では日本だけにいる鳥=日本固有種にはどんな鳥がいるのでしょうか?
翼をもち,高い移動能力をもつ鳥がなぜある地域だけに留まるのか,その仕組みには大きく2つのパターンあります。1つは大陸などの大きな島から,離島などの小さな島へと移動し,食べ物や気候などその小さな島の環境に適応し,移動の必要がなくなった結果,長い年月が経つ中で,元の種とは異なる種へと進化する「隔離固有」というパターンで,いわば「はぐれ居残り組」。 もう1つはかつて広く分布していた鳥が,競争相手となる鳥の出現によって追いやられ,高山や離島といったところに移住し、そこにだけ生き残った「遺存固有」というパターンで,いわば「追い出され組」です。
日本はこの両方のパターンの固有種がいて,例えば「隔離固有」の代表は三宅島のアカコッコや,沖縄島のヤンバルクイナなどがいます。また,「遺存固有」の代表は奄美大島のルリカケスや高山帯に生息するカヤクグリなどです。大陸から適度に離れ,また多くの離島をもつ日本は固有種の多い国で,だいたい同じ国土面積のイギリスの固有種が1種なのに対し,日本では10種以上が固有種として記録されています。
さて「固有種」と聞くと,離島や高山といった限られた場所にしかいない鳥というイメージがあるかもしれません。確かに日本の固有の鳥は先に挙げたアカコッコやルリカケスといった離島の鳥が大半を占めます。でも,実は身近な鳥の中にも日本の固有種がいるのです。その1つが日本の国鳥でもあるキジです。昔話にもよく登場する鳥ですが,雄の美しい姿は海外のバードウォッチャーの人気も高く,日本にしかいない,あこがれの鳥とされています。同じキジの仲間のヤマドリも日本固有種ですが,この両種はあまり飛ぶのが得意ではないので,固有種となりやすい鳥だったともいえます。
中形のキツツキであるアオゲラも日本固有種です。平地から山地の森林にいるので,割と身近に見られる鳥ですが,国内でも種子島(鹿児島県)~青森県までしかいません。ちなみに北海道にはアオゲラによく似たヤマゲラというキツツキがいるのですが,こちらは北海道からヨーロッパに至る,広大な分布をもつ鳥です。さらに身近な鳥でいえば,河川などでよく見られる白黒の鳥,セグロセキレイも日本固有種です。色がよく似たハクセキレイもいますが,この両種はあまり近縁ではないとされています。
ここまで日本の固有種について紹介してきましたが,実は固有種の数は定まっていません。例えばセグロセキレイやカヤクグリは,周辺国での観察や繁殖の記録があり,固有種とするかどうかは研究者によって意見が分かれています。一方,DNAを用いた分類の研究の進展により,例えば今年話題になったオガサワラカワラヒワのように,新たな固有種とされそうな鳥も挙げられています。どんな鳥が日本固有の鳥とされるのか,その結論を出すにはもう少し時間がかかりそうですが,今のところ,どんな鳥が日本の固有種なのか最後に挙げてみましょう。
【身近な固有種】キジ,ヤマドリ,アオゲラ
【離島の固有種】ヤンバルクイナ,アマミヤマシギ,ノグチゲラ,ルリカケス,メグロ,アカコッコ,アカヒゲ
【意見が分かれる固有種】カヤクグリ,セグロセキレイ
固有種の成り立ちは,日本が大陸から離れて陸地を形成していったときの歴史(地史)と深い関係があります。また,特に離島の固有種の中には,分布が限られているため,絶滅のおそれがある種もいます。その鳥がどんな経緯で固有種となったのか,よく似た種類とは見た目や暮らしぶりがどう変わったのか,今どんな保全上の危機があるのか,固有種の鳥を通して,日本の鳥について考えを深めていくこともバードウォッチングの楽しみといえるでしょう。