一年中楽しめるバードウォッチングにも,どちらかといえば不向きな時期があります。それが春の渡りと秋の渡りの間の時期,つまり夏です。梅雨〜真夏の時期は木々の葉が広がって森は見通しが悪くなり,繁殖に入った鳥はさえずりを止めて静かになります。また近年の夏の暑さは,見る側の私たちも野外活動を控えたくなるくらいのこともあります。こういった鳥見に不向きな夏でも,快適に楽しめる方法を今回は紹介します。
暑い夏でも鳥を快適に見られる場所,それは高地です。標高で言えば1,000〜1,500mほど登れば,平地と比べてずいぶん涼しく感じます。なお,気温は標高が100m高くなるごとに0.6℃下がるので,標高1,500mの地点は平地よりも9℃下がり,真夏でも比較的快適です。気温が低いということは,そのぶん鳥の活動時期にもずれが生じ,例えば平地でオオルリのさえずりが盛んに聞こえる4月ごろの高地はまだ寒く,姿を見たりさえずりを聞くのは難しいです。一方,6〜7月ごろに平地でオオルリの観察は難しくなりますが,高地ならまださえずりを聞いたり,姿を見ることが比較的簡単にできます。また,キセキレイやコマドリといった平地よりも高地のほうが見やすい鳥がいたり,さらに標高を2,000〜2,500mの高山帯まで上げればカヤクグリやホシガラス,ライチョウといったそこでしか見られない鳥との出会いも期待できます。
せっかく高地まで足を運んだので,日帰りで終わらせるのはもったいない——そういう人にぜひオススメしたいのがキャンプです。アウトドアブームの影響で,各地にはキャンプ場が整備され,特に近年は車でキャンプ場まで道具を運び,車の近くにテントを張って楽しむ「オートキャンプ」というスタイルが広まっています。これに伴い,テントなどのキャンプ道具も,車で運びやすいコンパクトなものであったり,女性や子どもでも組み立てやすい構造のものが数多く販売されています。かつては「テントを張って野外で一晩過ごす」というと敷居が高いイメージでしたが,家族連れや友人グループでも気軽に楽しめるレジャーになったといえるでしょう。
キャンプバーディング(鳥見+キャンプ)のいちばんの魅力,それは「常に探鳥地にいる感覚を味わえる」ことです。キャンプ場やテントで過ごすのは屋内でも屋外でもない特別なもので,どちらかといえば屋外にいる感覚に近いものです。例えばテントで休んでいると,夜は遠くからホトトギスやフクロウの声が聞こえてきたり,早朝は空から降り注ぐかのような,さまざまな鳥のさえずりで目覚めるといったこともできます。もともとキャンプ場は山間部や湖畔といった,自然が豊かな鳥見に向いている場所にあることが多く,テントを張っている最中に上空をタカが飛んだり,食事をしていたらテントそばの木にアカゲラが止まったなんてことも珍しくありません。鳥の存在に気づいたら,すぐに双眼鏡を持って観察,というフットワークの軽さも利点の一つです。また,せっかく双眼鏡や望遠鏡といった道具を持っているので,夜は星空観察もできます。街なかではなかなか見られない満天の星を見ることも,周辺に人工的な灯りが少ないキャンプ場ならではの楽しみ方といえるでしょう。
特に夏にオススメしたいキャンプバーディングですが,いくつか守りたいポイントがあります。まず,キャンプ場には一般の利用客もいます。近くで鳥が出たからといってほかの利用客のそばで観察したり,テントの方向に双眼鏡や望遠鏡を向けるのはトラブルの元です。また早朝から観察を始めるときも,周りの迷惑にならないように静かに行動しましょう。
高地でキャンプをする場合,朝晩は思いのほか気温が下がることもあります。真夏にキャンプに行くとしてもある程度の防寒装備は整えたほうが無難です。また,双眼鏡やカメラといった観察機材や貴重品は,防犯や夜露で濡れてしまうことを防ぐ意味で,自分が休むテント内や,車で来ていれば車内に保管するか,キャンプ場で貴重品を預かるサービスがあれば,それを利用するのも手でしょう(ただし早朝の観察では受付時間外のこともあるので注意)。