公益信託 サントリー世界愛鳥基金
文字サイズ変更
検索
TOP > バードウォッチングをはじめよう 野鳥界のアイドル,エナガ
6月 野鳥界のアイドル,エナガ 人気の秘訣は“小さい”“白い”“丸い”

 バードウォッチングを始めるきっかけの一つに,「鳥がかわいいからもっと見てみたくなった」があるように,鳥(特に小鳥)は「小さくてかわいい」という印象をもたれています。そんな小鳥たちの中でも,近年人気が急上昇し,ついには一般の人にまで知名度を広げた鳥がいます。今回はそんな野鳥界のアイドル,エナガにスポットを当ててみましょう。

会いに行けるアイドル

エナガを図鑑的に紹介すると「スズメ目エナガ科の小鳥で,全長14㎝とスズメとほぼ同大だが,“柄長”の名の通り尾羽が長いのが特徴。留鳥*1または漂鳥*2として九州以北の平地の明るい林や市街地の木の多い公園で見られる」といった感じです。(*1留鳥:1年を通して同じ場所で見られる鳥 *2漂鳥:高地で繁殖し,低地で越冬するなど,国内を季節移動する鳥)
この説明にあるように,離島の固有種といった見るのが難しい鳥ではなく,身近なところで見られる小鳥の一つです。探すときは「ジュリジュリ」という独特の声を頼りにすれば,バードウォッチング初心者でも見つけやすい鳥でしょう。ただし,スズメと同大といってもその大半は説明にあるように長い尾羽で,体のサイズは日本最小クラス,動きも非常にすばやく,常に枝先を飛び回っているタイプの鳥なので,見つけることは簡単でも,じっくり双眼鏡でとらえて観察するのは意外と難しいです。
 このエナガは以前から人気の鳥というわけではありませんでした。およそ10年前の「好きな鳥」のアンケートではベスト10にも入っていない,いわば普通の鳥でしたが,今や同じアンケートでは「好きな鳥・かわいい鳥」の上位の常連です。どんなところが人々の心をとらえたのか,その暮らしぶりを追ってみましょう。

枝先に止まるエナガ。名前の由来は長い尾羽。日本最小クラスの鳥だ
嘴が小さく,正面だと目立たない。鳥っぽく見えない顔も人気のポイント?
冬は餌台の常連で,群れになって現れる
眼の周りが細く黄色に縁取られているのが成鳥の特徴
エナガの一年

 エナガを最も見つけやすい時期は秋~冬,木々の葉が落ち,林の見通しがよくなると特に見やすくなります。この時期のエナガはメジロコゲラシジュウカラといったサイズの近い異なる種の鳥たちと一緒に「混群」という群れを作ります。混群にはタカなどの外敵を早く見つけられるとか,効率よく食物を探すことができるといった機能がありますが,この混群の中でエナガは先陣を切って移動することが多いです。遠くから「ジュリジュリ」という特徴的なエナガの声が近づいてくると,数羽のエナガの後に混群のほかのメンバーが現れるといった感じで,エナガは混群の到来を告げる鳥になっています。また,春~夏のエナガは林の中にいることが多いですが,秋冬は低地のヨシ原や草むらなどでも採食しているところをよく見かけるため,より観察しやすくなります。

混群で一緒に行動するシジュウカラコゲラ

 そんなエナガの繁殖の時期はほかの鳥よりも早く,まだ寒い2月から始まることもあります。つがいはコケやマツの葉などをクモの糸でつなぎあわせたソフトボール大の巣を作り,巣の内装には獣毛や鳥の羽を大量に敷きつめます。一説には巣の中に入っている羽は数百枚ともいわれ,これで寒い中でも繁殖できるよう,巣の保温力を高めているといいます。エナガは外見で雄雌の区別はつきませんが,繁殖はつがいが共同で行い,時につがい以外の個体が繁殖を手伝う「ヘルパー」が現れることもあります。卵の数は7〜12個,抱卵と育雛の期間はそれぞれ約2週間です。
 巣立ったばかりの雛はまだ親からの給餌を受けるのですが,このとき雛が枝に一列に並び,まるで「おしくらまんじゅう」をしているような状態になります。バードウォッチャーの間では「エナガ団子」と呼ばれ,雛の成長とともに見られなくなる巣立ち後の短い時期の行動なので,観察対象として人気です。こうして雛は少しずつ親から独立していきますが,その後も家族で群れを作って行動を共にすることが多いといわれます。

冬にヨシ原で採食する。ヨシの中に潜むカイガラムシなどの昆虫を食べる
エナガの巣は樹上に作られる。外装はコケなどでおおわれて目立たない
巣立ち雛は顔全体が黒く,眼の周りが赤く縁取られるのが特徴
雛が集まって枝に止まる。巣立ち直後の短い期間だけ見られる行動だ
北の人気者「シマエナガ」,関東の謎「チバエナガ」

 エナガは人気の鳥ですが,その中でも特に人気なのが北海道に生息する亜種*3「シマエナガ」です。(*3亜種:種より細かい分類単位で,同種だが繁殖地が異なり,羽色や形態が区別できるほどに違う個体群のこと)
 外見の違いは眼の上を通る太く黒い線がなく,頭全体が真っ白なことです。白い頭に小さな黒い眼と嘴がついている様子は本当にかわいらしく,本家のエナガよりも有名かもしれませんが,生態などは本土のエナガと同じです。

 そしてシマエナガのような亜種ではありませんが,千葉県北西部付近を中心にまるでシマエナガのように眼の上の黒い線がほとんどない,あるいは薄いエナガが観察されており,よく見られる場所や見た目にちなんで通称「チバ(千葉)エナガ」あるいは「薄眉エナガ」と呼ばれています。このチバエナガは通常のエナガと一緒に行動しており,ペアを作ることもあります。シマエナガとエナガは地理的に分布が分かれているため亜種なのですが,チバエナガはエナガと同じ場所にいるため,亜種にはなりません。個体の見た目のバリエーションともいわれますが,なぜ分布に地域的な偏りがあるのかはわかっておらず,研究もまだ始まったばかりです。エナガは身近な鳥ですが,こうした謎がまだ隠れており,バードウォッチングの奥深さや楽しさを教えてくれる鳥といえるでしょう。

北海道で見られる亜種シマエナガ。頭全体が白い
千葉県北西部を中心にみられるチバエナガ(通称)。顔の模様が薄いが,その正体は謎