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4月 春の干潟でシギ・チドリを楽しむ 海辺の旅人は年2回やってくる

 日本は島国で四方を海に囲まれています。その海辺に年2回,バードウォッチャーが待ち望んでいる鳥がやってきます。それは「シギ・チドリ類」というグループの鳥で,「シギチ」と略されて呼ばれることもあります。図鑑の分類では「チドリ目」というグループに属する「シギ科」「チドリ科」の水鳥となりますが,今回はこのシギ・チドリ類(以下,シギチ)たちを紹介しましょう。

シギの仲間のキアシシギ。まっすぐなくちばしと黄色の足が特徴の中形シギ類
チドリの仲間のコチドリ。眼の周りの黄色が鮮やかな小形チドリ類
満潮時に防波堤で休息するシギチたち。いろいろな種が一度に見られるのが楽しい
群れで飛ぶハマシギ。小形のシギは大きな群れを作ることが多い
シギチはいつ,どこにやってくる?

 最初に「年2回やってくる」と書きましたが,シギチはどこから飛んでくるのでしょう?これを理解するには鳥の移動について少し知っておく必要があります。日本には一年中いる「留鳥」,繁殖のために春〜夏に滞在する「夏鳥」,越冬のために秋~冬に滞在する「冬鳥」がいるのですが,これとは別に日本より北の地域(ロシアなど)で繁殖し,日本より南の地域(東南アジアなど)で越冬する鳥がいます。こうした鳥を「旅鳥」といい,多くのシギチはこの旅鳥に当たります。繁殖地に向かう途中の春,そして越冬地に向かう途中の秋,旅鳥にとって日本は長旅の途中に短い時間立ち寄る休憩場所のようなものです。
 そしてシギチたちの理想的な休憩場所は,見通しがよく安全で,かつ食物を簡単に得られる海辺,特に干潟という環境です。干潟は潮の満ち引きによって干出したり水没したりする,砂泥でできた平坦な海岸で,カニやゴカイ,貝など鳥の食物となる小形の動物が豊富にいるため,シギチをはじめとする多くの鳥が集まります。シギチが訪れる春と秋は特に干満の差が大きく,干潟の面積が広くなる点も好都合です。

ミユビシギの群れ。干潟はシギチの貴重な休憩場所となる。
ハジロコチドリ。多くは旅鳥として渡来するが,関東の一部地域では越冬する。
シギチ観察のおもしろさ

 実際に干潟に行ってみましょう。多くのシギチは波打ち際や干出した地面を歩き回って採食していますが,その大きさや形のバリエーションが豊富なことが特徴です。大きさは小さいとスズメ程度,大きいとハシブトガラスを超えるサイズのものもいます。頸(くび)や足が細長くてスマートなもの,大きく下に反ったくちばしをもつもの,くちばしが短くて干潟をせわしなく走り回っているものなど,“典型的なシギチ像”を示すのが難しいくらいです。この形を見ることがシギチ観察のおもしろさの1つ目です。そしてこの形の違いが生み出すもの,つまり行動シーンの観察がおもしろさの2つ目です。特に注目なのはくちばしと採食の関係で,短いくちばしで泥の中のゴカイを引き出して食べたり,長いくちばしを干潟の穴に入れて中に潜むカニを引き出して食べるなど,その体形に合わせたさまざまな方法で食物を得るシーンを見ることは飽きません。一方,羽衣は褐色~灰色といった地味なものが多く,また見た目のよく似ている複数の種類がいることがあるのですが,逆に難しい見分けにチャレンジするという楽しみ方もあります。なお,繁殖前の春のシギチは鮮やかなオレンジ色をしていたり,模様がはっきりしていることが多く,比較的見分けやすい時期なので観察にはオススメです。

ダイシャクシギ。大きく下に曲がったくちばしが特徴的
オオソリハシシギ。こちらはやや上に反ったくちばしをもつ。春に見られるオオソリハシシギは,顔〜胸が鮮やかなオレンジ色(冬は白~褐色)
干潟でゴカイを食べるメダイチドリ
干潟でカニを捕まえたソリハシシギ
干潟での鳥見のときの注意点

 干潟で鳥を見るときにまず注意しなければならないのは「潮の満ち引き(潮汐)」です。基本的には1日2回,干潮と満潮が交互に訪れるのですが,シギチは水面から出た地面で活動するため,干潮時でないと居場所がありません。また,干潟には身を隠す場所がなく,観察する人の姿は鳥から丸見えなので,不用意に近づけばすぐに飛び去ってしまいます。そこで干潟での探鳥の基本テクニックとして,まず観察時間を干潮から満潮になる時間にしましょう。こうすれば潮が満ちてくるにつれて干潟は小さく,岸に近づいてくるため,その動きに合わせて鳥たちが近づいてきます。また,一見平坦に見える干潟でも,微妙に高低差があり,潮が満ちてきても長い時間水面上に出ている場所があるので,そういった場所を見つけて待っていれば,鳥のほうから近づいてきます。
 特に春,干潟は潮干狩りの行楽客でにぎわっていますので,そういった時期や時間帯を外す工夫も必要です。さらに干潟にはアカクラゲやアカエイといった危険生物が現れることもあります。特にアカエイの尾のトゲに刺されると激しく痛み,最悪の場合死亡することもあります。長靴を履くことで予防したり,水面や地面をよく見て,すり足で歩いてアカエイを逃がすなど注意を怠らないようにしましょう。

見通しがよい干潟では探鳥会もよく行われる
同じ場所の干潮と満潮の比較。干潟に探鳥に行く場合は潮汐表などを使って行くタイミングを調べるのが大切
アカエイ。尾に強力な毒トゲをもつ
砂浜に打ち上がっていたアカクラゲ。触手に毒があるため,打ち上がっていても触るのは禁物