童謡「赤い鳥小鳥」(作詞:北原白秋)にこんな歌詞があります,“赤い鳥 小鳥 なぜなぜ赤い 赤い実を食べた”。このように歌にされるくらい,鳥が木の実を食べることはよく知られています。特に虫など動物質の食べ物が少ない冬,木の実は鳥たちの貴重な食べ物となり,越冬で日本に渡ってきた冬鳥を含めて,多くの鳥を支えています。今回はそんな鳥と木の実の観察について紹介しましょう。
木の実を食べる鳥の観察は,冬のバードウォッチングの楽しみの一つです。動かない木の実は見つけやすく,もし鳥たちが集まる人気の実であれば,そこで待っているだけで次々と鳥が訪れます。「でも,何の木の実かわからない」という場合は公園に行ってみましょう。公園の木には種名が書かれたプレートが設置されていることが多く,お目当ての実を付ける木を探したり,木の実の名前を覚える場にもなります。また木の実と鳥の関係に目を付けた図鑑などもありますので,こういった本を活用するのも手です。
後で紹介しますが,木の実にも鳥に食べられるメリットがあるため,目立つ形や色をしているものが多いです。冒頭の童謡に出てきた「赤い実」はその代表で,特に葉が残る常緑の木の場合,葉の緑に対して赤はとても目につきます(ほかには黒や黄色)。こういった木の実では,未熟なときは緑色の目立たない色で,きちんと成熟すると目立つ色に変わり,鳥を誘うといわれます。では,目立つ色の木の実なら何でも鳥に人気なのかといえば,実はそうでもなく,赤い木の実でも鳥にあまり食べられないものもあります。さらに人気の木の実でも季節の進行や周辺のほかの木の実の豊凶などが影響して,いつ食べに来るかは鳥次第です。
そんな「鳥と木の実観察初心者」におすすめしたい木の実がカキ(柿)です。人も食用にする有名な木の実ですが,詳しい人が「植物質を食べる鳥で,カキを好まない鳥はいない」というほど鳥に人気です。果樹として植えられている以外にも,庭木や街路樹として植えられることがあり,カキの形はみんな知っています。さらに実のサイズが大きく,穴が空いていたり,嘴の跡がついているなど,鳥が食べに来ているかどうかもわかりやすいところがポイントです。近所にカキの木があれば,定期的に見て回って,鳥が食べに来ていないかチェックしてみましょう。
鳥の貴重な食料となっている木の実ですが,植物の側もただ食べられるために実を付けているわけではありません。わざわざ実の色を変えるなどしてまで鳥に食べさせたい理由,それは「種子を運んでもらうため」です。その場から動けない植物にとって,高い移動能力をもつ鳥は種の運び屋としてうってつけの存在です。鳥に食べられた木の実の多くは,中の種が消化されずにフンとして排出され,落ちた先で芽を出します。誰も種を植えていない空き地にいつの間にか木が生えていることがありますが,これも木の実を食べた鳥が期せずして「種まきした」場合が多いです。ちなみに鳥が木の実を食べることを通して植物を広めるパターンには大きく2つあります。1つは上で紹介した木の実を食べて,消化されずに排出された種で広まるパターン,もう1つはドングリなどでよく知られる,その場では食べずに別の場所に隠しておいた(貯食された)木の実が,何らかの理由で食べられずに残って芽を出すパターンです。こうした鳥と木の実との深い関係が,森を作っているというわけです。