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バードウォッチャーの人気者,カワセミ。前回は姿形や探し方について紹介しましたが,姿が美しいことや見つけやすいことだけが,カワセミをここまでの人気者にした理由ではありません。今回は生態や行動を中心に,カワセミの魅力に迫ってみましょう。
カワセミに限った話ではありませんが,多くの鳥は1日の大半を採食に費やします。そのため,川べりに止まっているカワセミは休息しているように見えて,実は小魚や川エビといった食物を探しています。カワセミのハンティングは待ち伏せ型で,水面の見える場所から獲物を探し,見つけると頭から一気にダイビングして捕らえます。カワセミの細長い嘴,短い頸と足といった体形は,水中に飛びこむときの抵抗を減らすのに役立っています。そして捕らえた獲物はくわえたまま枝に叩きつけたり,エビやカニであれば脚を外して丸のみにします。このダイビングからの一連の流れは小鳥とは思えないくらい迫力があり,多くのバードウォッチャーが見たいシーンです。
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このハンティングに関連する動きの中で,もう1つバードウォッチャーに人気なのが「ホバリング」です。カワセミは獲物を探し,ダイビングするために水面から1mくらいの高さの場所に止まることが多いのですが,適当な場所がないときや,最終的に獲物に狙いを定めるとき,一時的に空中に留まるホバリング(停空飛翔)をします。カワセミの体重は30gほどですが,重力に逆らって空中に留まるには相当速く羽ばたく必要があるようで,例えばカワセミのホバリングを撮影する場合,1/1000秒以上の速いシャッタースピードでないと,翼がぶれて見えなくなるといいます。ホバリングの時間は短く,もちろん空中のどこでするかもカワセミ次第。カワセミの巧みな飛行術の中でも,最も観察が難しいシーンといえるでしょう。
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カワセミは身近な水辺で見られるので,じっくり観察すればその暮らしを追うことができます。ここでカワセミの1年の暮らしを見てみましょう
・冬
多くの鳥よりも早い,2月からカワセミの繁殖は始まります。オスは川沿いになわばりをつくり,メスを待ちます。メスが現れるとさっそくオスはメスに魚やエビといった食物をプレゼントする「求愛給餌」でアピールします。この求愛給餌も見てみたいシーンの1つですが狙って見るのはなかなか難しいです。ポイントはまず獲物をくわえて飛ぶオスを見つけること,さらに双眼鏡などでくわえている獲物の向きを見て,もし魚であれば頭が前,エビであれば尾が前であれば,求愛給餌の可能性は高いです。なぜなら,相手(メス)にあげるとき,ウロコやハサミがのどに引っかからないように向きを揃えているからです。もし向きが逆であれば,それは自分で食べるために捕ったものでしょう。カップルができれば,次は巣穴作りです。カワセミは川岸の土壁などに穴を掘って巣にします。しかし特に都市部では巣作りに向いた土壁は少なく,ときに川から数km離れた林の中で巣穴が見つかることもあります。
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・春
カワセミの産卵数は4〜7個,約20日間の抱卵を経てヒナが誕生します。抱卵から子育てはすべてオスとメスが共同で行い,ヒナが小さいうちは小さな獲物,大きくなるにつれて獲物のサイズは大きくなります。カワセミは成鳥もヒナも食物は丸のみなので,求愛給餌と同じく,ヒナに給餌する際の獲物の向きは決まっています。子育ての期間は3週間ほどで巣立ちは5月ごろ,早朝に行われることが多いです。巣立ち後1週間でヒナは親から独立し,条件が良ければ親は2回目の繁殖に入ることがあります。
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・夏~秋
繁殖が終わるとカワセミたちはそれぞれ1羽ずつ,なわばりを作って生活します。次の繁殖に備える時期でもあるので,なわばりに侵入者がいれば,同性・異性問わずに追い出します。こうして次の繁殖期が始まるまで,カワセミは川べりで暮らします。
日本には現在,カワセミ以外に6種類のカワセミ科の鳥がいます。このうちヤマセミは川の上流,主に渓流域にすむ留鳥で,アカショウビンは川や渓流沿いの林にすむ夏鳥です。このほかの4種類は渡りの時期に不定期に現れる迷鳥だったり,日本でまだ数回しか記録のない珍鳥だったりするため,観察は簡単ではありません。
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