「あなたがバードウォッチングに熱中するようになった,きっかけの鳥は何ですか?」
こういったアンケートを取ると,必ず上位に来る鳥がカワセミです。「清流の宝石」というキャッチフレーズとともに,あまり鳥を見ない人にも知られた存在なのですが,なぜ多くの人がカワセミに引きつけられるのか,カワセミの魅力を紹介しましょう。
カワセミは水辺で暮らす全長17cmほどの鳥です。長く鋭いくちばしと,短い首と足という体形で,遠目にはずんぐりした卵形の体に,長いくちばしがくっついているという印象です。背中は光沢のある緑〜青色,お腹はオレンジ色で,色の美しさが魅力の1つです。
小鳥程度の大きさでは鳥に興味のない人だと,目の前にいても気付かないこともしばしばで,観察会などで初めて見た人からは「え,こんなに小さいの?」と驚かれることもあります。しかし,カワセミは河川や池などの身近な水辺にいて,慣れれば探すポイントもわかりやすく,一カ所に留まっている時間も比較的長いので、バードウォッチャーの必需品,双眼鏡があればその美しい姿を大きくじっくり楽しめます。
また,カワセミには「帰ってきた鳥」という呼び名もあります。カワセミは戦前,水辺さえあればどこにでもいる鳥でしたが,戦後の高度経済成長期に汚れた河川から姿を消し,本当に清流にしかいない鳥になりました。その後,下水道の整備により川の水質は改善され,さらに多少の水の汚れに強いモツゴといったカワセミの食物となる魚が増えたことで,1980年代には再び都会でも見られるようになりました。かつては清流にしかいなかった「あこがれの鳥」が身近に見られるようになった,そのギャップも魅力なのでしょう。
現在,カワセミに会うために山奥の渓流に行く必要はありません。街なかを流れる川や公園のちょっと広い池でもカワセミを見ることは可能です。ここではカワセミに出会うコツを紹介しましょう。まずカワセミの存在に気付くきっかけとなるのは「声」です。水辺を歩いていると「チー」や「チーチッチッチッ」という甲高く,鋭い声が聞こえることがあります。バードウォッチャーはこの声を「自転車のブレーキの音」とよく表現しますが,そういった声がしたら,水面を見てみましょう。カワセミの体は大きくありませんが,日が当たると腰の部分の羽毛が青色に反射してよく目立ちます。また水面すれすれを川面に沿って一直線に飛ぶことが多く,空高くや陸の上を飛ぶことはあまりありません。つまり声が聞こえたら,川面の上流か下流を見ればよく,飛ぶカワセミを見つけることはそう難しくないです。
しかし,カワセミの飛ぶスピードは速く,運よくどこかに止まってくれなければ飛び去ってしまうだけです。そこで,今度は止まっているカワセミを探してみましょう。カワセミが川べりにいるのは主に採食のためで,小魚や川エビなどをダイビングして捕らえるため,基本的には水面の見える,少し高い場所を好みます。例えば川面に張り出した木の上や水際に生えるヨシ,川底から突き出した枝や竹といった自然物のほか,コンクリート護岸の水際部分や水面の見える柵などの人工物にも止まります。一方,川岸の地面といった,水面と同じ高さの場所にはあまり止まりません。ちなみに“川”セミですが,川の河口部や海岸といった海辺でも観察できることがあります。
今回紹介するカワセミが主に見られる川べりは,カワセミ以外にもいろいろな鳥に出会える,バードウォッチングには最適な環境の1つです。川べりの良いところは,川面に沿って上流と下流に見通しがよいこと,川(水辺)と川岸(陸地)という異なる環境が揃うこと,川に沿って散策路があることが多く,移動しながらの観察に便利な点が挙げられます。カワセミは基本的に一年中見られる鳥ですが,カワセミを探せば,季節に合わせてさまざまな鳥に出会えることでしょう。