鳥とただ出会うだけであれば,道具がなくてもできますが,「鳥のことをもっと近くで見たい」「目の前にいる鳥のことをもっと知りたい」と思えば,やっぱり道具が必要になってきます。バードウォッチャーが必ず持っている道具,それは双眼鏡と図鑑です。今回はまず双眼鏡についてお話ししましょう。
鳥と出会い,もっと近くで大きく見たいと近づけば,たいていの鳥は飛んで逃げてしまいます。近づくと逃げるのであれば,近づかずに見るしかありません。そうすると,鳥の姿は見えても,細かい羽の模様や仕草を見るのには不十分です。また,せっかく見つけた鳥なので,もっと大きく見られると楽しさは広がります。そういったときに役立つのが双眼鏡で,これがあれば,鳥に近づかなくても,しっかり観察できるようになります。
バードウォッチャーの象徴とも言える双眼鏡ですが,どんなものが選ばれているのでしょうか?カメラ店などに行くと,さまざまな大きさや形の双眼鏡が並び,この中から自分に合ったものを選ぶのは至難の業です。簡単な選び方のヒントを紹介しましょう。
(1) 倍率と口径
双眼鏡を見ると「8×30」といった掛け算の式のような表示があります。これは「倍率×口径」を示していて「8倍30」と読みます。この“8倍”という数字は「見る対象との距離を1/8に縮める」の意味で,例えば100m先にいる鳥を,その1/8の距離である12.5mまで近づいて見るイメージです。同じように10倍なら1/10の距離である10m,20倍なら同じく5mとなります。倍率は高いほど近くで見えてよいように思いますが,倍率が高くなると見える範囲が狭く,暗くなったり,ぶれて手持ちでは見にくくなったりなど,マイナス面が出てきますので,多くのバードウォッチャーは8倍か10倍の双眼鏡を使っています。
もう1つの“30”ですが,これは正確には30mmで,対物レンズの直径です。双眼鏡は目を当てる側(接眼)と見る対象に向ける側(対物)の両側にレンズがあり,対物側のレンズ径が30mmあるという意味になります。対物レンズは光の取り込み口のようなもので,大きければ大きいほど,たくさんの光を取り込むので明るく見えます。ただし,レンズが大きくなれば,双眼鏡のサイズは大きく,重くなるので,持ち歩くのがたいへんになります。使いやすさからバードウォッチャーの双眼鏡の主流は30mmや40mmクラスのものとなっています。もし初めて手にする双眼鏡であれば,まずは8×30程度のものから考えてみることをオススメします。
(2) とにかく実機を触ってみよう
倍率と口径である程度絞り込めたとしても,双眼鏡には他にもさまざまな性能の種類,つまりスペックがあります。例えば「視野は広いほうがよい」「眼鏡をかけて使うならアイレリーフは長いほうがよい」「最短合焦距離は短いほうが観察の幅が広がる」と言い出せばキリがないのですが,選ぶときにぜひ実践してほしい,いちばん大切なことが1つあります。それは「実際に自分の手で持って,双眼鏡をのぞいてみる」ということです。
どんなに高性能な双眼鏡であっても,例えば構えたときにうまく操作できなかったり,のぞいて見たときに違和感を感じることはあります。こういった印象はカタログの数字や,他人の感想からでは決して分からないものです。私たち1人1人に個性があるように,物の見え方も人によって異なります。ある人が「この双眼鏡はいい」と言っても,それが自分に合うかどうかは自分にしか分かりません。
いろいろな双眼鏡を手に持ち,のぞいてみることで持ちやすさ,操作のしやすさ,見え味といった,数字では表せない感覚やフィーリングの部分が自分に合っているかを確かめて,自分の双眼鏡を決めるようにしてください。双眼鏡を持ってフィールドに出た時には,それまで見えなかったものが見える新鮮な驚きと,楽しさを味わうことができます。