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TOP > トピックス 6月 ハトにもいろいろ
身近な青い鳥 アオバトのはなし
幸せの青いハト?

 ベルギーの作家、メーテルリンク作の「青い鳥」の話はご存じでしょうか。主人公である「チルチル」と「ミチル」の兄妹が、幸福の「青い鳥」を求めて夢の中でいろいろな場所へ旅をするのですが、結局見つけることができずに夢から覚めると、部屋の隅で飼っていた鳥が「青い鳥」に変わっていたというお話です。

 この「青い鳥」に変わる前の鳥は、「ハト」と記述されています。ヨーロッパには「青いハト」はもちろん、青色の鳥が生息しておらず、なかなか存在しないものの象徴として「青い鳥」が用いられたのではという説もあるようです。

(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)
日本にはそのものずばり「アオバト」というハトが生息しています。ただ、「アオ」といっても実際は緑色をしているため、「ミドリバト」の方がしっくりくるかもしれません。アオバト以外にもアオゲラというキツツキの仲間も緑色ですね。古くは緑色を示す言葉がなかったため、青と表現していた名残とも言われています(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)
オオルリ(滋賀県木之町本町 撮影/中島朋成)
オオルリ
ルリビタキ(山梨県鳴沢村 撮影/中島朋成)
ルリビタキ(山梨県鳴沢村 撮影/中島朋成)
日本には「オオルリ」や「コルリ」、「ルリビタキ」など、本当の意味で青色の鳥が存在しています。ただ、和名には「青(アオ)」ではなく、「瑠璃(ルリ)」が付けられており、何とも趣深い名前となっています。
(インドネシア バリ島 撮影/中島朋成)
インドネシアやパプアニューギニアには「カンムリバト」という、きれいな青い色をした文字通りの「青」バトも生息しています(インドネシア バリ島 撮影/中島朋成)
深山より響く 怨霊の声?

 この鳴き声をお聞きください。

サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
アオバト http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/4519.html

 いかがですか。
 他の鳥たちとかなり異なった鳴き声だと思いませんか?
 これがアオバトのさえずりです。

 声の主の正体がわかった上で聞き慣れると、何とも独特で哀愁のある鳴き声とも思えますが、私自身、まだ鳥のことをほとんど知らなかった学生の頃、登山を終え下山しているとき、山の奥から響いてきたこの声を聞いて、何とも不気味で怖くなり、大急ぎで下山したことを覚えています。

溺れる危険の岩礁で何を?

 アオバトと言えば、春から秋にかけて海岸に飛来する行動が知られています。飛来地としては神奈川県大磯町の照ヶ崎海岸が有名で、5月下旬から10月中旬までは特に多くの個体を観察することができます。

(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)
春から秋にかけて海岸にやってくるアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)

 このアオバトはどこからやって来るのでしょうか?
 実は、照ヶ崎海岸より北西方向に直線距離で20~30km程離れた神奈川県の丹沢地域より飛んできていることが判明しています。海岸で採取された糞分析より、周辺では丹沢地域でしか見られないミヤマザクラの種子が確認されたのです。

 では、何のためにこんなに遠くの海岸まで来るのでしょうか?
 なんと、海水を飲むために飛来しています。
 海水に豊富に含まれるミネラル分を補充するためとか、主食である果実にあまり含まれていないナトリウム分を補充して、体内のナトリウムとカリウム比のバランスを保つためとか考えられていますが、はっきりとした理由はまだわかっていません。

 ただ、海水を飲むために、高波にのまれて溺れてしまう危険を冒していることから、どうしても海水を摂取する必要があることが伺えます。

波しぶきのなか、海水を飲むために岩礁にやって来る照ヶ崎海岸のアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)

鳥類のスピードスター

 駅前や公園などに群れて、人間の周りをウロウロするハトたち。実にのんびりしているように見えます。ところが、ハトは、鳥類のなかでも1、2を争うほどの飛翔スピードを誇っていることをご存じでしょうか。

 鳥類最速は時速400kmを越えるスピードを誇る「オオグンカンドリ」、時速350kmを越える「ハヤブサ」といった記録も見られますが、これは獲物を狙って急降下するときの速度です。実際、水平移動する際の速度は、両種とも時速100~150km程と言われています。

(宮城県七ヶ浜町 撮影/中島朋成)
急降下するときに時速350㎞を出すこともあるハヤブサ(宮城県七ヶ浜町 撮影/中島朋成)

 それではハトはどうでしょう。飛ぶことに特化して品種改良された「伝書バト(レースバト)」は、最高で時速157kmで飛翔したという記録があり、平均速度でも時速60~70kmで飛翔することができるそうです。時速100km程度で飛翔する姿も確認されており、動画サイトで「高速道路 ハト 並走」などのキーワードで検索すると、高速道路を走る車と並走して飛翔するハトの動画を見つける事ができますよ。

(神奈川県横浜市 撮影/中島朋成)
のんびりしているように見えるドバトだが、平均速度でも時速60~70kmで飛ぶという(神奈川県横浜市 撮影/中島朋成)
鳩レース
鳩レースで、スタートと同時に一斉に飛び立つハト。愛鳩家が各自の飼育している鳩を持ち寄って、同一地点から同時に放鳩し、誰の鳩が速く帰ってくるかを競う

 スズメカラスと並んで、とても身近な鳥であるハトですが、いろいろと興味深い行動や能力を持っています。休日に公園などで見かけたときには、少し気をつけて観察してみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれませんよ(一般財団法人自然環境研究センター 主席研究員 中島朋成)

ハトの技 その1 水の飲み方

 ハトの特異な技の一つに「水の飲み方」があります。えっ?何が特異なのと思われる方が大半かと思います。

 実は、水たまりなどの水を飲むときに、たまり水に口を付け、下を向いたまま「ごくごく」と水を飲むことができるのは、鳥の仲間ではハト類とごく少数の種類(ハト目に近いサケイ類、ノガン類、一部のカエデチョウ類)のみと言われています。

 他の鳥はどうやって水を飲んでいるのでしょうか。実は嘴で水をすくった後、上を向いて水を流し込む方法で水を飲むほか、ツバメなどは飛びながら水面に嘴を付けて水を飲みます。

 どうしてハト類だけがこのような水の飲み方ができるのかはよくわかっていません。ただ、あくまでも推測ですが、次のような理由が考えられます。

 ハト類のヒナは、親の素(そ)嚢(のう)内で作られる栄養価の高い液体(ピジョンミルクと呼ばれます)を摂取して育つことが知られています。そのため、液体を効率よく飲みこむ能力を必要としたため、獲得した技なのではないでしょうか。

 これから梅雨の季節を迎えて、路上などに水たまりが多くなることと思います。もし、ハトやカラス、スズメなどが水を飲む場面に遭遇したときには、注意深く観察してみてください。

下を向いたままで水を飲むアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)
下を向いたままで水を飲むアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)

ハトの技 その2 天敵に襲われたときには

 ハト類は鳥類のなかでも羽根が抜けやすいと言われています。いや抜けやすいという表現は適切ではなく、「ごっそりとむける」と言った表現の方が良いかもしれません。

 実際に捕獲調査などでハトをつかんだとき、そのつかんだ部分の羽毛がごっそりと抜けるということを聞いたことがあります。この特性は、トカゲが天敵に襲われたときにつかまれたしっぽを自ら切って(自切と言います)、敵がしっぽに気を取られている間に本体は逃げるという行動と同じなのではと考えられています。

 すなわち、飛翔中などに天敵である猛禽類に襲われてつかまれとき、つかまれた部分の羽毛が抜けることで逃げ切る確率を上げているのではないかと考えられています。ちなみに抜けやすい羽毛は体幹部分や尾羽など、飛翔に直接関係のない部分のみで、飛翔するのに必要な翼部分(風(かざ)切羽(きりばね))は容易には抜けることはないようです。

群れをなして飛ぶアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)
群れをなして飛ぶアオバト(神奈川県大磯町 撮影/安齊友巳)