キツツキという鳥をご存じでしょうか?国内では1年中見ることができる鳥なのですが、キツツキだ!と意識して見たことがある人は少ないのではないかと思います。冬は平地でも目につきやすくなるので、観察するのにおすすめです。
林の中や公園を歩いているとコツコツという音が聴こえたことがありませんか?それはキツツキが木をつついている音かもしれません。
ところで、キツツキが木をつつくのにはいくつか理由があります。
■縄張り誇示(ドラミング)…キツツキ類は他の鳥のように、メスへの求愛や縄張りをアピールするための特定のさえずりを持っていません。その代わりに、枯れ木などを高速でつついて音を出すドラミングを行います。木造の建物や電柱をつついて穴を開けてしまう困り者もいますが。ゴリラでもドラミングといいますね。たたくのは胸ですが。
■餌探し…キツツキ類は木の中のカミキリムシなどの甲虫の幼虫やアリなどを好んで食べます。これらの餌は他の鳥が利用できないため、キツツキ類は餌が乏しくなってくる冬でも昆虫などを安定して食べることができるのです。
冬幹のなかにいる幼虫を掘り出して食べる(埼玉県北本市 撮影/今井 仁)
■巣作り…キツツキ類は木に穴を掘って巣を作ります。種によってまちまちですが、枯れた木に巣を作る場合や、生きている木でも中心部が腐っている木を選択します。たくさんの木の中から、つついたときの音や試し穴を掘って判断していると言われています。木の内部は暖かく、巣材をしっかりと敷いていない場合が多いようです。
■ねぐら…キツツキは寝るときも木の中です。ねぐらは、複数の穴が隣接しているという特徴があります。なぜそんなことをするのかというと、例えばひとつの穴からヘビ等の天敵が侵入してきたら、つながっている他の穴から逃げることができるからです。
キツツキは他の鳥とは体の構造も違います。足の指が前向きに2本、後ろ向きに2本あり、尾羽は羽の中心(羽軸)が硬く、木の幹にとまるときはこの脚と尾羽で体を支えて、木をつつきます。またキツツキ類は舌が長く、嘴から頭骨にかけて舌が格納されていて、その長い舌で木の中の餌をからめとって食べます。
ところで日本のキツツキの仲間は、名前の語尾に「ケラ」がついています。キツツキは漢字で書くと啄木鳥。木を
皆さんにとって、キツツキ類は森の中にいるイメージかもしれませんが、冬の季節、コゲラ、アカゲラ、アオゲラは身近に観察できる種なので、紹介したいと思います。
コゲラは最も身近に見られるキツツキと言っていいかもしれません。都心の公園でも観察することができます。マーブル模様の日本最小のキツツキで、スズメほどの大きさです。ギィという特徴的な声で鳴きます。小さな体と嘴でキツツキに見えないと感じるかもしれませんが、立派に木をつつきます。
サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
コゲラ http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/
detail/1425.html
アカゲラは、背中に白い逆八の字の模様を持ち、スズメの2倍近くの大きさがあります。赤、白、黒の配色が冬枯れの森の中で目を引きます。アカゲラには、よく似た形態をしている山地に多いオオアカゲラ、ほかにも北海道に分布するコアカゲラがいます。
サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
アカゲラ http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/
detail/4521.html
アオゲラは日本固有種で、ハトを一回り小さくしたくらいのキツツキです。古語でアオは緑色を指すため、背面が全体的に緑色なのが特徴です。日本のキツツキ類の中では多彩な鳴き声を持ち、特にピョーピョーという声は森の中に大きく響き渡ります。
サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
アオゲラ http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/
detail/1373.html
キツツキの仲間は夏場、巣を構えてヒナを育てる時期になるととても広い縄張りを持つことが知られています。枯れた木から餌を探すことが多く、ヒナに与える十分な餌を確保するため広い範囲を動き回ると考えられています。しかし、冬の時期は自分が食べる分を確保できればいいわけですから、キツツキ類が互いの縄張りを誇示せずに、比較的近い距離で数羽が一緒にいるところを見ることがあります。アカメガシワ1本の木にアカゲラ3羽、アオゲラ1羽が餌を食べている様子を確認できたこともあります。
寒さをこらえて公園の森や社寺林などを散歩してみましょう。冬になって葉が落ちて初めて、こんな所に鳥が巣を作っていたのかと気づく場面も多いかと思います。木の枝が積み重ねられた巣以外に、木の幹にも目を向けてみるとキツツキ類の巣穴を見つけることができるでしょう。
キツツキ類が枯れた木を巣作りや餌をとることに利用していることは、先項でご紹介しました。ここで少し森の中でのキツツキの役割というのを考えてみたいと思います。森には様々な生き物が生息していますが、環境の変化によってそのバランスが崩れたときに、病気が発生することがあります。例えばマツ枯れやナラ枯れです。これらはいずれも木が枯れる病気で、マツ枯れはマツノマダラカミキリというカミキリムシの仲間が媒介するセンチュウによって引き起こされます。ナラ枯れはカシノナガキクイムシという小さな甲虫が媒介する菌によって発生します。
このマツ枯れをキツツキ類の力を利用して緩和できないかという取り組みが行われたりしています。例えば、キツツキ類がつかまって寝られるようにねぐら木を模した、底が抜けている巣箱をマツ林に設置してキツツキを誘致し、センチュウを媒介するカミキリムシの幼虫を食べてもらおうというわけです。東北地方を中心に全国各地の松枯れ被害林、林業試験場などで人為的にカミキリムシの幼虫を入れた材におけるキツツキ類の捕食量を調べた報告では、30%~100%に近い捕食率があることが報告されています。実際にはそれぞれの地域でキツツキ類の生息状況が異なるので、カミキリムシが幼虫でいる時期にキツツキ類がこなかったり、キツツキ類の個体数が少なかったりといった問題もあるようです。
また、ナラ枯れに関してもキツツキ類への影響があるか気になるところです。近年日本海側を中心として、ブナ科樹木、特にミズナラという木が大きな被害を受けていて、森にすっぽりと穴が空いたように枯れてしまっています。枯れ木があればキツツキ類がたくさん巣を作るのでは?と期待されます。しかし、筆者がある地域のナラ枯れが発生した森を調査したときには、
キツツキ類は天敵に場所を覚えられるのを避けるため、毎年新しい巣穴を掘るといわれています。その使わなくなった古巣をシジュウカラ等の小鳥や小型哺乳類が、さらに木の腐食が進んでうろになるとフクロウ類などにも利用されることがあります。これらの生き物は二次樹洞利用鳥類・哺乳類と呼ばれています。
樹洞に巣を作る鳥類は国内ではキツツキの仲間、スズメの仲間、ブッポウソウの仲間、フクロウの仲間、カモの仲間が知られています。哺乳類ではコウモリやリスの仲間が樹洞を利用しますが、これらの生き物の中で自ら穴を掘ることができるのは、キツツキの仲間だけです。キツツキ類は樹洞の生産者として、これらの生き物に住みかを提供する森林生態系の中でも重要な位置を占めているのです。
実態はまだまだ解明されていない部分も多いですが、木が枯れることによって起きる変化は、生き物すべてにおいて悪い影響が出るわけではないという所がおもしろいですね。
いかがだったでしょうか。きれいな声でさえずるわけでもなければ、ダイナミックに飛翔するわけでもありませんが、それを差し引いてもとても魅力的な鳥です。
キツツキ類を含めた樹洞営巣性鳥類のヒナは木の中から出て、初めて外の世界を知るわけです。木の中から鳥が巣立つというのはよくよく考えると不思議ですよね。
皆さんも木に穴を見つけたら、キツツキやその穴を利用して繰り広げられる生き物の営みを感じてもらえたら嬉しい限りです。