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カラスの仲間たち

 カラスは、分類で言うとスズメ目カラス科に属しています。小さなスズメにカラスが属しているようで、ちょっと変な気がしますよね。
 鳥の分類では、スズメ目に属する鳥が最も多く、現在世界中に生息している鳥類およそ1万数百種のうちの実に過半数以上(60%)となる約6千種がこのスズメ目に属しています。そのうち、カラス科にはカラス属をはじめ、カケス属、オナガ属などを含む25属128種(IOC(International Ornithological Congress:国際鳥類学会議)World Bird List)が知られています。
 みなさんが街中で見かけるカラスと呼んでいる鳥は、このうちの2種で、「ハシブトガラス」と「ハシボソガラス」です。

ハシブトガラスとハシボソガラスの違い

 《容姿》
 いちばんわかりやすい容姿の違いは、くちばしの太さです。名前にある「ハシブト」、「ハシボソ」の“ハシ”とはくちばしを指していて、くちばしの太いものをハシ“ブト”ガラス、細いものをハシ“ボソ”ガラスと呼びます。
 両者の全長について、一般的な図鑑などではハシブトガラスが56㎝、ハシボソガラスが50㎝と表記されています。もちろん個体差はありますが、平均するとハシブトガラスの方が大きいといえます。
 そのほかにもハシブトガラスの額は、出っ張っているという特徴もあります。

ハシブトガラス(東京都小平市 撮影/中島朋成)
ハシブトガラス(東京都小平市 撮影/中島朋成)
ハシボソガラス(愛媛県新居浜市 撮影/中島朋成)
ハシボソガラス(愛媛県新居浜市 撮影/中島朋成)

 《鳴き方》
 ハシブトガラスは、木の枝などにとまった状態で、尾羽を真下に下げながら「カア、カア」と比較的澄んだ響く声で鳴きますが、ハシボソガラスは人でいうとお辞儀をするような格好で頭を動かしながら「ガア、ガア、ガア」と濁った感じで鳴きます。

 サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
 ハシブトガラスの鳴き声  (http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/4611.html)

尾羽を真下に下げながら鳴く(千葉県野田市 撮影/安齊友巳)

 サントリーの愛鳥活動HP「日本の鳥百科」より
 ハシボソガラスの鳴き声  (http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1477.html)

お辞儀をするように頭を動かしながら鳴く(千葉県野田市 撮影/安齊友巳)

 《生息環境》
 現在、両種とも同じような場所でも見ることができますが、以前から同じ場所に生息していたのかというとそうではないようです。
 ハシブトガラスは、もともと森林地帯に生息していて、飛びながら、あるいは木にとまって餌を探します。ねぐらとしては、山の中腹あたりの森林を利用していました。
 一方、ハシボソガラスは、元来草原などの開けた環境を好み、地面に降りて歩きながら食べ物を探します。ねぐらとしては平地の森林などを利用していましたが、近年では両者が一緒にねぐらとしている森林などもあり、ねぐらとする環境については、両者に明確な好みの違いはあまりないようです。

非繁殖期のカラスは夜間、集まって眠る習性がある。ねぐらに入る前は、電線などに集合して、暗くなる頃に移動する(千葉県野田市 撮影/安齊友巳)

 《営巣場所》
 1991年に大阪府高槻市で行われた生物教師の中村純夫氏の調査では、ハシブトガラスの営巣場所は、92%が常緑樹、3%が落葉樹、5%が人工物となっていました。常緑樹のうちアカマツへの営巣が62%となっており、アカマツへの依存度が高いようです。ハシボソガラスの営巣場所は、52%が常緑樹、25%が落葉樹、23%が人工物となっていました。常緑樹の中ではアカマツ、クスノキがそれぞれ40%ほどを占めていました。このようなことからハシブトガラスの方が隠蔽度の高い常緑樹を好み、ハシボソガラスは送電鉄塔などの隠蔽度の低い人工物にも営巣するという違いが伺えます。

 先日、都内の電柱に写真のような張り紙がありました。

電柱に貼られたカラス注意の張り紙(東京都墨田区 撮影/鈴木隆)
電柱に張られたカラス注意の張り紙(東京都墨田区 撮影/鈴木隆)

 電柱の上を見るとハンガーなどでつくられた巣が。この巣をこのままにしておくと、電線がショートするなど危険であることから、撤去しなければなりません。数日後、巣を撤去するため作業にやって来た人に話を聞くと、4月下旬ぐらいから7月上旬ぐらいまで、多い日には1日に3~4つの巣を撤去するそうです。場合によっては巣作りをしていたカラスから攻撃を受けることもあるとか。
 なお、撤去されるまでの数日間、この巣を観察していたのですが、巣を作り始めて何かが気にくわなかったのでしょう、すでに放棄してしまったようで親鳥が戻ることはなく、ハシブトガラスとハシボソガラス、どちらのカラスの巣かは特定できませんでした。

ハンガーや選択ばさみなど、などさまざまな巣材でつくられたカラスの巣(東京都墨田区 撮影/鈴木隆)
ハンガーや洗濯ばさみなど、などさまざまな巣材でつくられたカラスの巣(東京都墨田区 撮影/鈴木隆)

 《貯食》
 貯食とは、読んで字のごとく、食を蓄えることです。誰ですか?食いだめなんていっているのは。この場合は、食って貯めるのではなく食べ物を隠して貯めておき、お腹がすいたときに探し出して食べることをいいます。この行動は、両種において行われます。
 ハシブトガラスは主に樹洞の中、ハシボソガラスでは草わらや石の下などに隠しておきますが、あとになってちゃんと回収して食べているようです。なまものは比較的早いうちに、クルミなど長期保存のきくものは数週間後に取りに来たという観察例もあり、隠した餌の性質も把握しているという報告もあります。

都市の変化とカラスの変化

 東京の事例で見てみると、昭和30年代には東京近郊にもまだ田園が広がっており、開けた場所を好むハシボソガラスが多く生息していたそうです。その後、高度経済成長を経て、多くの高い建物が林立するようになると、その建物をもともとの生息環境であった森に見立ててハシブトガラスが進出してきて今日に至っています。
 我々人間の目から見れば、都市と森林とでは全く異なりますが、木の枝にとまって高いところから餌を探すハシブトガラスにとって、ゴミ集積所の近くにある電線やビルの屋上のフェンス、アンテナなどは森林にある木の枝と同じということでしょうか。札幌や仙台などのようにビルが建ち並んでいても、周辺に田園地帯が隣接するような場所では、ハシブトガラスとハシボソガラスの数が拮抗(きっこう)している地域もあるようです。
 そのように生息環境が変化するなかで、自然環境の中から得られる餌を食べていたカラスのうちの一部が放置されたゴミの美味さと栄養価の高さに味をしめ、それを中心に食べるようになり、また効率よく餌を見つけることができるようになりました。その結果、ヒナの生育状況は良くなり、個体数が増えるようになったのではないでしょうか。

利口なカラス

 さて、次の連続写真をご覧ください。
 ハシボソガラスが電線の高さまでクルミを運び、そこから落としてクルミの殻を割って食べているところです。ご存じのように、クルミの殻は固いので、カラスのくちばしでも割ることは大変です。そこで、このカラスは高いところから落として殻を割り、その実を食べる技を編み出したのです。

(神奈川県相模原市 撮影/村田野人)
(神奈川県相模原市 撮影/村田野人)
(神奈川県相模原市 撮影/村田野人)
(神奈川県相模原市 撮影/村田野人)
(神奈川県相模原市 撮影/村田野人)

 さらに高度な技を身につけた例としては、宮城県の東北大学構内に生息するハシボソガラスが有名です。ここのカラスは、車にクルミを轢(ひ)かせて殻を割り、中身を取り出して食べる技を持っています。感心することに、行き来する車を観察して、タイヤの通る位置にクルミの場所を微調整する姿も観察されています。また、海岸沿いに生息しているハシボソガラスの中には、海岸で採取してきた貝類をくわえて舞い上がり、上空から道路に落とし、殻を割って中身を取り出す姿も観察されています。それに類する話ですが、首の長い水差しにカラスのくちばしが届かないところまで水を入れ、そこに餌を浮かせます。すると、周囲にある石を水差しの中に落とし、水位を上げてその餌をとる。また、色の違う紙風船の中に個数の違う餌を入れます。例えば、赤に5個、青に3個、黄色に1個。その後も色ごとに餌を入れる個数を変えずに与えると、数の多い紙風船から餌を食べるようになるといった実験結果も報告されています。

 これらの事例は餌を食べるという目的が伴った行動ですが、餌を食べるためではなく「遊び」としか考えられないような行動も観察されています。例えば、滑り台を滑っておりたり、電線に足でつかまってぶら下がり、その足を放して落下し、地面近くで翼を広げて飛び上がるバンジージャンプのような遊びまでやることも報告されています。
 また、海外で撮影されたネットの動画では、雪の積もった屋根の上で小さな何かの破片に乗り滑り降りるというような、スノーボードのような遊びもします。その動画では、最後にその破片をくわえて持ち去ったので、またどこかで同じことをやって遊んでいるのかもしれません。

ハシブトガラス(山口県周南市 撮影/中島朋成)
ハシブトガラス(山口県周南市 撮影/中島朋成)

 カラスにはまだ驚くべき能力があります。
 たとえば、図を見極める能力です。
 宇都宮大学のカラスの研究者として知られている杉田昭栄氏は、カラスをケージに入れ、器の上に○と×の図を書いた蓋をします。その状態で、○だけに餌を入れておきます。初日、カラスはとにかく蓋を開けて中を確認し、中に餌があれば食べるという結果だったのですが、2日目、3日目と実験を重ねていくと○だけを開けるようになります。その後、同様にして○と△、○と□、○と正六角形といった具合に餌の入っていない方の図形を変化して実験を重ねても、平均すると85%の確率で○を選択したという結果がえられました。
 しかも、この実験を40日間中止したあとに再開しても間違えずに○の蓋を開けて餌を獲得したそうです。図を見極める能力とともに、その記憶力もすばらしいものがあります。

 前述の実験は、ある意味でひとつの形状を覚えると正解にたどり着けるというものです。そこで、犬の写真を数種類(例えば、秋田犬、土佐犬、ダックスフンドなど)と鳥の写真数種類(スズメ、カルガモ、キジバトなど)を用意し、犬の方に餌を入れておきます。組み合わせはその都度変えていきます。すると、実験2日目には、間違いなく犬の方を選ぶようになります。犬の写真も立っているもの、座っているもの、寝ているものなど様々なポーズを使用しても結果には変わりなく平均80%で餌を獲得するという成績を収めました。
 この結果から、単に図形としてとらえているのではなく、同じグループとして(今回の実験では犬の仲間というグループとして)選択をしているということがいえます。

ゴミを散らかす原因は?

 近所のゴミ集積所。出されていたゴミがいつの間にか散乱して……。だいたい犯人はカラスかネコですよね。
 この映像をご覧ください。今年3月に渋谷駅の近くで撮影したものです。舗道上に出されたゴミを多くのカラスがあさっています。

早朝にゴミをあさるカラス(東京都渋谷区 撮影/鈴木隆)

 ちなみに福岡市や大阪や東京の三鷹市の一部では、深夜や夜明け前にゴミを回収するため、朝、路上にゴミが山積みになっているということが無く、このような事態にはなっていないようです。
 先述の動画を撮影した渋谷区では、鷹匠によりカラスの追い払いを試みるなど様々な対策を行っています(テレビのニュースの映像では、タカに追い立てられるカラスの映像が映し出されていました)。
 現在、各自治体で多く採用されている対応策としては、ゴミ集積場にネットを用意してネットをかぶせるという方法があります。すべてのゴミにネットがかかるようにし、風にあおられないように重しを置くなど適切に使用すれば簡便低コストの対応策だといえます。自治体によっては、このようなネットを配布したり、収集時間を早めたり、折りたたみ式集積所ケースなどを開発するなどして対応しています。

 このような事例を見てみると、人とカラスの軋轢(あつれき)も、人の行動ひとつで解決できるのかもしれません。それには、多くの人の協力と努力が必要になりますが……。

ハシボソガラス(宮城県名取市 撮影/中島朋成)
ハシボソガラス(宮城県名取市 撮影/中島朋成)

 さて、今回は身近なカラスについて見てきました。
 さまざまなものを利用して食べたり遊んだりしているカラス。ゴミを散らかす困った行動の一端は、人の生活に起因している可能性があることなどを考えると、少しはカラスに対する印象が変わってきませんか? カラスの悪い印象は、人の生活がその誘引となってしまったような気がするのは私だけでしょうか。

 地方にいた頃、田んぼのあぜ道でザリガニを食べているハシボソガラスを見かけました。都心でグルメなレストランから出た残飯をあさるカラスと自然の恵みを食べるカラス。どっちが幸せなのでしょうか?みなさんはどう思いますか?

 今回の話のいくつかは、ネット上の動画などで見ることのできるものもあります。著作権の問題もあり紹介できないのは残念なのですが、興味がある方は探してみてください。

(一般財団法人自然環境研究センター事務局  鈴木隆)