みなさん、川や海などで水面に浮かぶ真っ黒な大きい鳥を見かけることはありませんか?しばらく見ていると潜って何かを探したり、たまに魚をくわえて浮上したりしています。そう、それが鵜と呼ばれる鳥たちです。鵜飼いに用いられている鳥としても有名ですよね。
みなさんが普段見ているのは、カワウやウミウではないでしょうか。カワウは川を中心に生活しているからカワウ、ウミウは海を中心に生活しているからウミウと名付けられたのは想像にたやすいですよね。しかし、ところによっては海にもカワウはいますし、川にもウミウはいます。東京湾は海ですが、そこにいる鵜はほとんどがカワウです。海にいたからウミウだろうっていうのは、違う時もあるかもしれないのです。
下の写真、左がカワウ、右がウミウです。そっくりですよね。
何が違うんだ? とほとんどの方が思うと思います。
カワウは平成19年から狩猟鳥獣にくわえられました。ハンターさんたちが猟銃で撃ってもよいことになったのです。しかし、ウミウの狩猟は認められていません。そこで、環境省はハンターさんたちに向けたわかりやすい識別点を公開しています。
カワウとウミウの見分け方(環境省)
これによれば、はっきり違いがわかるポイントは嘴の基部の黄色い部分(皮膚が裸出している部分)で、カワウではとがらないのに対し、ウミウでは口角(上嘴と下嘴の接合部)付近で黄色い裸出部が嘴の反対方向に尖っているのです。遠くからの観察ではほとんど見えず、近くても双眼鏡や望遠鏡がなければ見えないぐらいの違いです。難しいですね。
その他には背中の色がカワウでは褐色光沢、ウミウでは暗緑色光沢と違うようですが、これは光の当たり具合によって色合いが微妙に変わって見えたりして、はっきり区別できるとは限りません。
また、体の大きさが違うとか、飛んでいるシルエットが違うとか見慣れている方は言うのですが、それは見慣れた人がなせる技ですね。私には少し難しいです。
日本にはカワウとウミウ以外にも鵜と呼ばれる鳥たちがいます。
ヒメウとチシマウガラスです。
どちらも体全体が黒いのですが、ヒメウは、カワウやウミウに比べると少し小さく、繁殖期に目先が赤くなります。北海道の天売島などで繁殖し、冬は本州の西日本沿岸の海域まで南下して越冬しますが、その数はそれほど多くはありません。
チシマウガラスは、“カラス”という名前がついていますが鵜の仲間です。ヒメウと同じく繁殖期には目の周りが赤くなります。他の鵜とは冠羽(頭に冠のようにある飾り羽)があり、嘴が黄色みを帯びるところが違います。
さて、今では普通に見られるカワウですが、かつては個体数が激減していたことを皆さんご存知でしょうか。
カワウは、1920年以前は北海道を除く全国各地で普通に見られる鳥だったようです。ところが、明治以降から戦前までは無秩序な狩猟などによって急速に個体数が減少し、追い打ちをかけるように水辺の汚染や開発などにより生息環境が悪化し、1970年代には3,000羽以下まで個体数が減少したといわれています。その頃にはカワウのコロニー(集団繁殖地)は全国で3カ所(愛知県鵜の山、大分県沖黒島、東京都台東区不忍池)のみとなりました。
その後小規模な群れが、愛知や東京といった大きなコロニーから遠く離れた各地で再発見されるようになりました。そのような場所では人間によるカワウへの圧迫が少なく、カワウがすみやすかったようです。河川の水質改善等により餌資源(魚)が回復したことやコロニー保護などにより、その後は個体数が回復し始めました。
個体数が増加した地域では、ねぐらやコロニーでの人間による追い払いなどの攪乱によってカワウの拡散が促進され、コロニーの分布も全国的に広がったようで、2000年の時点では、推計60,000羽程度が生息するとされ、今も増加傾向にあるようです。
最近ではカワウが増えすぎて困っている方々がいます。そう、漁協の人たちです。せっかく放流したアユがカワウに食べられるということが各地の川で起こっており、それを回避するべく様々な取り組みがされています。
放流場所にカワウが来てもらっては困るため、川を横断するようにキラキラ光るテープをつけたテグスを張ったり、カワウが来ないように案山子を立てたり、カワウから魚を守る取り組みをしています。また、流域のカワウの個体数を増加させないよう、繁殖を制限する等の取り組みや、最近では、カワウとともに共存できるよう、川魚の隠れ場所となる魚礁を川に創出したり、昔のようにたくさんの魚が生息する川の環境を取り戻すような取り組みが全国各地で行われてきています。
今は放流魚の食害や、営巣地での鳴き声や糞、臭いなどによって人間との軋轢が生じていますが、かつては集団繁殖地の地面に藁を敷き詰めてカワウの糞を採取して肥料などに利用していた時代もありました。このように、昔にみられたような人間とカワウとのよい共存関係をもちながら暮らせる日が来ればいいですね。(一般財団法人自然環境研究センター上席研究員 中山文仁)
鵜飼い用に飼育されているウミウは、卵すら産まないと言われてきました。ところが3年前、宇治川のほとりの鵜小屋のなかで卵を産み、その卵を鵜匠が人工孵化させました。そして成長したそのウミウの鵜飼いにも成功させ、現在「ウッティー」の愛称で人気を博しています。京都府宇治川の女性鵜匠、澤木万理子さんにお話をお伺いしました。
はい。今年で3年目になります。今年は2ペアが各4個と5個の卵を産みました。 2014年5月、鵜小屋のコンクリートの床に鶏の卵と似た薄青い卵が落ちているのに気づきました。まさかとは思いましたが、ウミウの卵以外に考えられません。鵜小屋は小さく、親鳥が踏みつけてしまいそうだったので、人工孵化を選択しました。
人工孵化で育つと人間を親と思ってよりなつきますから、綱をつけずに鵜飼いができるかもという夢を抱きました。綱をつけない鵜飼いを「放し鵜飼い」というのですが、15年前にこの技を持っていた鵜匠さんが亡くなってから途絶えてしまっていました。現在、孵化したヒナたちも大人になり、ウッティーの愛称で活躍してくれています。数年後の放し鵜飼の実現にむけての一歩前進です。
巣材や人工育雛には、100円均一や家庭用品ばかり使っています(笑)。今年はホームセンターで梅干し用のザルを購入し、ペアがいつもいるあたりに固定して竹箒の小枝を切って置いておいたら、落ちていた羽なども拾って自分たちで巣作りをしました。つがいが繁殖しだすとまわりの鵜も気が立ってきますから、鵜小屋の中はぴりぴりとしています。私たちも掃除や餌やりで小屋に入るのが怖いぐらいです。
昨日、巣を撤去したのですが、9個のうち6個が有精卵と確認されており、24時間体制で、今保育器に入っている5月10日に生まれたヒナ(取材は5月12日)の飼育をしながら新たに生まれてくるヒナを待っています。
実はこのヒナの前にふ化した一羽が獣医師の処置や私たちの願いも届かず死んでしまって……。未成熟で消化器に問題があったようでした。とても残念に思っています。私たちは大人の鵜の飼育はプロですが、ヒナを育てるのはまだ3年目なので、試行錯誤の日々を送っています。保育器内の温度を35度、湿度を70パーセントに維持しながら、2~3時間ごとにカルシウムとビタミン剤を加えた鯵(アジ)のペーストを精製水で溶いたものを注入器で口に入れています。(サントリーからの「澤木鵜匠様。よかったら給餌にサントリーの天然水を使ってください。ちょっと宣伝しちゃいます(笑)。聟島(むこじま)で育てられているアホウドリのヒナもサントリーの天然水で大きくなっています♪)
幸い応援してくださる獣医師も近くにいらっしゃいますし、動物園にも連絡をとらせてもらっています。富山市ファミリーパークや上野動物園、天王寺動物園などの飼育員さんが、鵜小屋の見学にお越しくださりました。私どもが聞くことがあっても飼育のプロの方が見学にいらっしゃるとは驚きました!
私たちも試行錯誤ではありますが、なるべく細かいデータをとることで、今後に生かしたいと思っています。
ところでウミウというのは渡り鳥ですから、春は繁殖のために北へ、秋には越冬のために南に向かう種ですが、そこらへんは大丈夫なのでしょうか。
夏場に暑くて体力が落ちるということもありませんし、春先に渡りたい、というそぶりも見せることはないですね。鵜飼いのシーズンは鮎の解禁に合わせた夏ですが、毎日鵜飼いをさせると疲れますから、そこらへんは加減しながらやっています。ご存じのように鵜飼いは、とった魚を飲み込ませないように喉の部分をくくるのですが、首をもみながら体をくくり、信頼関係がありますから暴れることもありません。
現在、日本では12カ所で鵜飼いが行われており、それぞれに特徴があります。宇治川では、鵜飼をする鵜舟と観覧船の距離が近いのでダイナミックな鵜飼を見ていただけます。
宇治川の鵜飼いは、船頭と鵜、鵜匠の息が合っていなくては成り立ちません。そして鮎などが育つきれいな川も必要です。宇治川の水は、琵琶湖から流れてきます。上流で雨が多く降れば、水流が多くなり、川が濁って、鵜飼いをできないこともありますが、すべては自然の恵みです。
鵜飼いを眺めてもらう屋形船は水面が近い船です。川を身体で感じながら、鵜飼いを見てもらい、自然を身近に感じてもらいたいと願っています。