“カラス”“スズメ”“ハト”。日本人ならどんなに自然に関心のない人でも、まずは知っている鳥ですよね。今回は、その中からスズメを紹介したいと思います。
今更スズメを紹介されても、なんて思うかもしれませんね。だって、家の中でも庭にいるスズメの声が聞こえますし、外を歩けば道路わきからスズメが飛び立ち……スズメなんてそこらじゅうにいますから。
小さいころから「すずめの学校」「すずめのお宿」の歌や、「舌切雀」の昔話などにもふれ、誰にとってもなじみの深い鳥といっても良いでしょう。でも、本当のスズメの姿を知っていると言えますか?
さて、ここに4枚の写真があります。この写真の中にスズメがいますが、どれだかわかりますか?
では、ヒント。スズメは、全長14~15センチぐらい。成鳥は頭部が赤茶色で、頬には黒斑があり、背中は褐色で黒い斑点があります。どうです。わかりましたか?
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答えは、②番です。 (千葉県浦安市 撮影/鈴木隆)
顔のアップの写真を見てください。くちばしは付け根がやや太い円錐形をしています。植物の種や小さな昆虫を食べるのに、ちょうど適した形状となっています。スマートではないですが、なんとも愛らしい顔立ちをしていますよね。
スズメは、見た目には雄雌の区別はつきません。また、身近な鳥であることから、野鳥を観察する際には大きさを比較するための「ものさし鳥」とも言われています。
スズメ以外にあげた鳥も紹介しましょう。
写真①はニュウナイスズメです。(北海道北見市 撮影/中島朋成)
オスの見かけはスズメに似ていますが、頬に黒斑がなく、頭と背中は茶褐色に近い色をしています。5月~7月に北海道の平地や林、本州中部以北の山地で繁殖し、関東以南で越冬します。ですから、越冬期の九州地方ではスズメと一緒に見られることがありますが、他の地域では野外で比較するのは難しいようです。
写真③はホオジロです。(千葉県いすみ市 撮影/鈴木隆)
全体的に赤みのある褐色をしていて、少しスズメに似ている感じもしますが、決定的に違うのが顔です。顔は白と黒で彩られていて、ちょうど頬のあたりが白くなっており、まさにホオジロですよね。都市部というよりも里山の身近な鳥という感じです。
写真④はカワラヒワです。(千葉県いすみ市 撮影/鈴木隆)
姿を確認するのは難しいですが、意外と住宅街の上空でも「キリコロコロコロ」と鳴きながら飛んでいることがあります。公園の地面に降り立ち、餌をついばむ姿も見られます。そんなときは、近くにスズメもいるかもしれないので、比較してみてください。
スズメの若鳥。親鳥にある頬や喉の黒斑がまだはっきりしていないのでニュウナイスズメのように見えます。嘴の付け根部分が黄色く若い個体(この年生まれ)であることがわかります。 |
日本中、どこに行っても必ずスズメはいる!そんな気になりますが、本当にそうでしょうか?
たとえば、人里離れた自然いっぱいの山奥でスズメを見かけることはまずありません。もし、あるとしたら、その近くには必ずといって良いほど集落があります。その一方で、かつては人が住んでいても、人がみんな集落を離れてしまったりすると、そこからスズメもいなくなってしまいます。
なぜでしょう?
一つには、スズメの食べ物との関係があります。管理してある田んぼの畦に生えている植物やその周りにいる昆虫を食べるスズメは、草が生い茂った森林内よりも、人の近くにいた方が便利なのです。そして、もう一つは、天敵から身を守る手段として人の周りにいるのです。
スズメの天敵としてあげられるのがカラスです。カラスは、卵、雛はもちろん、時には成鳥まで食べることがあります。そんなカラスから身を守るには、カラスを追い立てる人間のそばにいるのが一番安全ですよね。
天敵はカラスだけではありません。ネコも大の苦手です。ネコは人の家で飼われているから矛盾しないかと思うかもしれませんが、どうですか?みなさんの周りで飼われているネコは、スズメやネズミをとります?最近の飼われているネコには、そのような行動はあまり見られないようです。今は、ノラネコがスズメにとっては脅威となっているかもしれませんね。
そのほか、小型の猛禽類(チョウゲンボウなど)なども天敵になっています。
また、以前は人間も!年輩の方、記憶にないですか?庭に餌をまいて、ざるにつっかえ棒をして、それをひもで縛って物陰に隠れ、餌をとりに来たスズメが入るのを待つ、なんて遊びをしたことがあるのでは?そう簡単には捕まりませんけれどね。
※野鳥の捕獲には狩猟免許の取得等様々な手続きが必要になります。
雨上がりの水たまり、公園の噴水のところなどで、鳥が水浴びをしているのを見たことがありませんか?この水浴びは、羽根についた寄生虫や脂粉(鳥のふけの様なもの)などを洗い流すために行うものとされています。ですから、冬の寒い時期でも個体によっては水浴びをすることがあります。夏の時期に見ていると気持ち良さそうですが、冬の寒い時に見ると、いくら羽毛があるとは言え、人から見ると寒そうに見えますよね。
さて、この映像を見てください。これは、スズメが砂浴びをしているところです。砂浴びをする目的は、水浴びと同様に羽根についた寄生虫などを落とすということなのですが、一般的に鳥では、水浴びか砂浴びのどちらかを行うものが多いのですが、スズメは水も砂も浴びてしまう珍しい鳥なのです。
スズメの砂浴び (千葉県野田市 撮影/安齊友巳) |
珍しいついでに紹介すると、カラスの仲間のカケスでは“蟻浴(ぎよく)”と言って、アリの巣の上に座り込み、アリを身体にはわせるという行動をとる鳥もいます。これは、アリの分泌する蟻酸(ぎさん)を利用して寄生虫を駆除しているとも言われていますが、本当のことはよくわかっていません。身近な鳥ではカラスやムクドリもやることがあるそうなので、これらの鳥が地面に座り込むような格好をしていたら注意して見てください。
スズメは、どんなものを食べているのでしょうか。
秋の田んぼでは、スズメが群れているのを見かけることがあります。特に、稲の乳熟期から収穫期にかけてお米をついばむので、農家にとっては『害鳥』と言われています。
その一方、稲が伸びる大事な時期……この時期はスズメの子育ての時期でもあります。その頃スズメの親鳥は雛の成長に効率のよい動物性たんぱく質であるゾウムシ、ハムシ、ヨコバイ、アワフキ、イナゴなどを与えます。これらの昆虫は、農作物にとって害を及ぼす昆虫たちです。
過去にはこんな話もありました。1955年の中国のことです。スズメがいなくなればたくさんのお米を収穫できるはずだということで、多くのスズメを捕まえました。その結果、秋にはたくさんのお米が…とれるどころか凶作になってしまったそうです。その原因は、スズメがいなくなったことにより、虫たちが大量に増えて稲に大きな被害をもたらしたといわれています。その後、スズメは捕獲の対象から外れたそうです。
この様なことからすると、スズメは益鳥とも言えるわけですね。そう考えるとどうでしょう、害鳥、益鳥という言葉は、人間の都合によって見方が代わる言葉だということが言えませんか。
スズメの巣を探すには、繁殖期に野外を歩きながら耳をすませてください。“ピィピィピィ”とか細い声が聞こえてくることがあります。そんな時は、良くまわりを見てください。家の雨どいと屋根の間とか、構造物の隙間から枯れた植物がぶら下がっていたり、スズメが頻繁にある場所の周囲を飛び回っているところを注意して見ると巣を見つけることができます。地方では、人家近くの木や樹洞を利用して作っている巣もあるそうです。
ところが、最近の家は気密性が高かったり、マンションが増えたりしてスズメが思うように巣をつくる場所が無くなったのでしょうか。最近よく見かけるのは電柱にあるトランス(電柱の上に乗っかっているバケツみたいなもの)を固定する器具などに巣をつくるようになりました。ある調査では、都市部の126の巣を調査したところ、83.3%にあたる105個が電柱の器具に作られていたそうです。場合によっては、ツバメが作った巣を利用して巣をつくっていたスズメもいるようです。
人間でも都市部に家を持つのは大変ですが、スズメの世界でもなかなか難しいようです。
さて、これまで“身近な鳥”としてスズメの紹介をしてきましたが、本当にスズメはいつもそばにいるのでしょうか?
少し昔の調査になりますが、1924年から1943年に農林水産省が実施した標識放鳥の記録と回収の調査では、新潟県北蒲原郡葛塚村(現在の新潟市北部)で放鳥されたスズメのうち、約90%は、5㎞以内の地域で回収されたのですが、なかには富山県248㎞、名古屋370㎞、滋賀県406㎞ばかりでなく、600㎞も離れた岡山県で放鳥から約4カ月後に回収されたスズメもいたそうです。しかも、6個体も。
ほとんどのスズメは常に今生息している周辺で過ごしているのですが、一部のスズメはある時離れた場所へ移動するということが分かっています。
これらの移動は、8月下旬から10月中、下旬に行われており、移動先も新潟から南の地域に移動していることから、寒い冬の時期を少しでも暖かい地域で過ごすための移動や、近親交配を避けるために幼鳥が分散する渡りともいわれていますが、現在のところはっきりとした理由は分かっていません。
何気なく見ていたスズメもこうやって改めて見てみると実に興味深いですね。少しはスズメを見る眼が変わりましたか?
本当は、もっとたくさんのことを書きたいのですが、今回はこのぐらいにして、また、別の機会にこの続きでもと思います。
最も身近な鳥「スズメ」。今度は是非、じっくりと見てください。もっといろんなことが分かるかもしれませんよ。