寒い冬、私たちを暖かく包んでくれるものに羽毛布団やダウンのコートなど、鳥の羽毛を使用した商品が多く存在します。このような暖かな羽毛につつまれた鳥たちは、極寒の冬でも元気に活動しています。今回は、この鳥たちの羽毛、特に羽色にまつわることについて紹介してみたいと思います。
鳥たちの羽毛でまず気がつくことは、種類によって様々な色彩を持っている点でしょう。私たち人間は、いわゆる光の3原色である青・赤・緑を見ることができ、高度な色覚を持っています。そのおかげで、鳥たちの色鮮やかな羽毛を識別することが可能になっています。ニホンザルやチンパンジー、ゴリラといった大型の類人猿は、人間と同様な色の識別が可能で、犬や猫は、基本は赤と青の識別のみです。特に猫は、ほとんど色を識別できないようです。では、鳥はどうでしょうか。
鳥たちは人が見ることできる3原色に加え、紫外線まで見ることができると言われています。そのため、紫外線をよく反射するネズミの尿や光沢のある果実を感知して、前者ではチョウゲンボウがネズミを、後者では小鳥類がエサとなる果実を効率よく見つけたりできるようです。また、人間にはオスとメスで同色に見える鳥でも、紫外色上ではオスとメスで色彩が異なっていて、番い相手を選ぶ際の重要な要素となっている例(ヨーロッパに生息するアオガラなど)もあるようです。
全身の羽毛が黒色(墨色)をした、その名もクロサギというサギの仲間がいます。クロサギ自体は東北以南に広く分布するサギですが、他のサギ類のように水田などの内陸の水辺では見ることはできず、主に海岸の岩場や干潟などに生息しています。このクロサギですが、本州では名前の通りほぼ黒いクロサギのみが観察されますが、南の方に行くに従い、コサギのように全身が白いクロサギ(白色型と言います)の出現率が高くなることが知られています。この白色型のクロサギとコサギの見分け方ですが、足に注目してください。足全体が黄色なのがクロサギ、黒色で足指部分のみ黄色なのがコサギです。
それではなぜ、南の方に行くと白いクロサギが多くなるのでしょうか?それについては、サギたちがエサをとる環境と関連するのではないかと考えられています。一般に本州の海岸に見られる大部分の岩場や砂浜は黒色をしており、そのような場所でエサをとったりする場合には、身体の色も岩場と同じような暗色である方が隠蔽色となってエサとなる魚から見つかりにくくなります。一方、南国の島々では、サンゴ礁やそれに由来する白い砂浜が多く見られます。そのような場所では、本州とは逆に明るい色の方が隠蔽色となるため、白色のクロサギが多くなるのではないかと考えられています。
通説として、オスの羽色は派手でメスは地味な羽色をしているものだ、と思われている方が多いかも知れません。しかし、実際はオスとメスで羽色が異なっている種類の方が少なく、オスとメスがほぼ同色である種類の方が多いのです。
オスとメスで羽色が大きく異なる種類としては、水鳥ではカモ類、陸生の鳥ではヒタキ科の仲間に多く見られます。特に有名なのは代表的な夏鳥でもあるオオルリやキビタキで、それぞれのオスは、前者は青、後者は黄色を基調としたとても美しい色彩をしています。一方、メスはというと両種とも全体的に淡褐色をしており、オスとは全く違う種類と思われるのではないでしょうか。メスは抱卵時に目立たないような色彩であることが重要なのでしょう。
あまり知られていない例として、今回はイソヒヨドリを紹介いたします。磯(イソ)と名前にあるとおり、国内では海岸付近に生息していることが多く、岩場や消波ブロック、堤防などに止まっている姿が観察されます。ただ、近年は内陸地で観察される例も増えてきています。ヒヨドリと名前にはありますが、いわゆる町中でも見かけることの多いヒヨドリ(ヒヨドリ科)とは類縁関係は遠く、前述したオオルリやキビタキと同じヒタキ科に属する種類で、冬に日本に渡ってくるツグミに近い仲間です。事実、古くは「イソツグミ」と呼ばれていたようですが、江戸時代中期頃より、現在の「イソヒヨドリ」と呼ばれるようになったようです。ただ、なぜこのように呼び方が変わったのかはよく分かっていません。実際、ヒヨドリと姿が似ているかというと、あまり似ているとは思えず、どちらかと言うとツグミに近い形態をしています。
このイソヒヨドリですが、オスは頭から背、尾にかけてと胸が青色で、腹部と下尾筒が暗赤色という独特の美しい色彩をしています。一方、メスは全体的に暗褐色でほとんど特徴のない色彩をしています。海岸付近に出かけた際は、堤防や消波ブロックなどを探して見て下さい。運が良ければ美しいオスの姿を見ることができるかもしれません。
コゲラという小型のキツツキの仲間を知っていますか。近年は市街地近くでもよく見られるようになったスズメほどの大きさのキツツキで、「ギィ」とドアが軋むような声で鳴き、木々を移動しながら他のキツツキと同じように木をつついてエサとなる虫などを探しています。
このコゲラですが、オスとメスはほぼ同じ色、模様をしています。しかし、オスがメスにはない羽毛を持っていることは、あまり知られていません。実は、オスの頭の後頭部付近には、左右対称に5~10枚ほどの、ほんのわずかな赤い羽毛があるのです。この羽毛は、他の羽毛より本当に小さく、さらによく動き回る鳥であることから、野外観察で見ることは至難の業です。実際私も見ることに成功していません。では、写真に撮ればわかるかというと、まわりの羽に埋もれているため、頭部の羽毛を逆立てた時といったような時にしかわからないようです。この赤い羽毛を見ることにチャレンジしてみませんか?
コゲラよりもひとまわり大きく、低山帯の森林で見ることのできるキツツキの仲間に、アカゲラというキツツキがいます。全体的には白と黒のモノトーンの色彩をしており、下腹部の鮮やかな赤色が目立ちます。
他のキツツキの仲間(オオアカゲラ、コゲラなど)は北海道から本州、四国、九州まで国内に広く分布していますが、アカゲラはやや偏った分布をしています。本種は北海道、本州中部以北では普通に見られますが、本州西南部や四国では分布するものの個体数は大変少なく、九州には分布していません。林内に生息しているため、葉っぱが生い茂っている季節に姿を確認することはやや困難ですが、冬に落葉する落葉広葉樹の多い森林ではチャンスとなります。
このアカゲラのオスとメスの区別は、とても簡単です。姿を見かけたら、頭に注目してください。頭に赤い部分があればオスで、赤い部分がなく、頭全体が黒ければメスとなります。
ちなみに国内に生息する、若しくは生息していたキツツキの仲間のうち、「ミユビゲラ(頭部の黄色の有無でオスとメスを識別)」と「アリスイ(オスとメスは同色のため野外で識別することは困難)」を除いた9種類のオスとメスの識別は、すべて頭部の赤色で判断できます。8種(ヤマゲラ、アカゲラ、オオアカゲラ、コアカゲラ、コゲラ、ノグチゲラ、クマゲラ、キタタキ(国内絶滅種))は、前出のアカゲラ同様に頭部の赤色部分のあるなしで判断でき、「アオゲラ」は、頭頂部全体が赤いのがオス、後頭部のみ赤いのがメス、というように赤色部分の面積の違いが識別ポイントとなっています。