2014年度の助成先として、8つの鳥類保護団体の活動が決定し、4月8日に行われた助成金贈呈式でご紹介されました。贈呈式の様子や8団体の活動内容についてご報告します。
4月8日、サントリー世界愛鳥基金の活動助成金贈呈式が東京・丸の内の銀行倶楽部にて行われました。8名の運営委員のご紹介の後、サントリーホールディングス株式会社執行役員・コーポレートコミュニケーション本部長の濱岡智様、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室の安田直人様、運営委員長の小林光様よりごあいさつがありました。
「鳥が安心してすめない環境には、人も暮らすことはできない。鳥を守ることは、人の暮らす環境を守ることにつながります」 |
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「野鳥との共存には、まだまだ課題がたくさんあります。長年にわたる野鳥の保全へのご理解とご支援に、お礼を申し上げます」 |
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「サントリー世界愛鳥基金による25年間のご支援により、鳥類の保護活動に非常に大きな成果がありました。さらなる発展を期待しています」 |
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飼育下のヤンバルクイナの野生復帰訓練に関する研究
島嶼隔離個体群ダイトウコノハズクの増殖と個体群管理
ユルリ・モユルリ島周辺海域に生息する希少海鳥類の生息マップ作成
「街のオオタカ、山のサシバ」その生態解明と保護のための基礎資料収集
越冬地解明及び減少要因の検討
ブッポウソウは、全国的にその数を減らし、東日本では絶滅寸前です。繁殖地以外の環境変化にも原因があるのではないかと、ジオロケータ(内部のセンサーにより調査対象の位置データを得る装置)を用いて越冬地や渡りルートの解明を目指しています。すでにこのデータにより2010年、2011年に中国地方で繁殖した個体は、マレーシアのボルネオ島で越冬していることが判明しました。2013年の繁殖期には15羽にジオロケータを装着し、今繁殖期に回収する予定で、2014年度の助成では新たに20羽にジオロケ-タを装着します。将来的には東日本に生息する個体群の追跡を目指します。
中国地方のブッポウソウについては越冬地情報が得られ始めたが、この地以外の地域で繁殖するブッポウソウの越冬地解明が急務である。中国地方以外の地域では個体数の減少速度が速いため、手遅れになる前に、各地域の保護関係者と連携して、早急に調査を実施したい。(山階鳥類研究所) |
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1981年に新種として発見された国内唯一の飛べない鳥ヤンバルクイナ。発見当初は1800羽と推定されていましたが、2005年には800羽以下にまで減ってしまいました。そこで私たちは2006年から4年間にわたって助成を受け、さまざまな関係機関と共に、人工孵化・育雛の技術開発、および飼育下繁殖にも取り組んできました。一度は絶滅の淵に立ったヤンバルクイナですが、現在は復活の兆しを見せ始めています。そこで、次なる目標は、野生復帰に耐えうる個体の創出です。2014年度の助成では、飼育個体から野生復帰候補個体を選出・野生復帰訓練を行い、発信器を装着したヤンバルクイナを試験区域に放鳥して追跡調査を行います。
飼育下の個体が野生下でも生きていけるよう、採餌能力や危機回避能力などを事前に十分把握する必要があります。また、放鳥後に十分な追跡調査ができる体制を整えることも重要な課題です。人工孵化や育雛、飼育下繁殖から野生復帰へ。これらの一連の流れが、ヤンバルクイナの絶滅回避に大きく貢献できると考えています。(どうぶつたちの病院 沖縄) |
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ダイトウコノハズクが生息する南大東島は、小さな海洋島です。100年ほど前の開拓当初に営巣木であるダイトウビロウが皆伐されて生息数を減らしましたが、外来種であるモクマオウなどに営巣して何とか存続してきました。ところが、台風直撃による営巣木の倒木やノネコなどによる捕食、タイワンカブトによるダイトウビロウの食害など、近年の生息環境の急速な劣化で、オス個体数は150羽を切るほどに激減してしまいました。そこで2011年より巣箱での営巣を促す活動をはじめ、昨年はこの巣箱から52羽が巣立つなど順調な成果を上げています。3年目を迎えるこの助成では、個体群の維持のためのより詳細な生態研究を進めます。
亜種ダイトウコノハズクは、南大東島の狭い樹林地に架設された巣箱で順調に繁殖を行なっている。しかし移入されたイタチとネコによる雛の捕食は少なからずある。第一の課題はこの問題を解決することである。また巣箱は樹林が回復するまでの暫定措置に過ぎない。自然の樹洞を利用できるような樹林の育成が大切である。(ダイトウコノハズク保全研究グループ) |
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希少海鳥類の生息マップ作成
北海道根室半島南側の島々と海域には、エトピリカ、ケイマフリなどの希少な海鳥が多数繁殖しています。また60種以上の海鳥も生息しており、6時間の調査で平均1500羽、多い時期には4000羽も確認することができます。しかし近年、海鳥の個体数が減少していると言われており、生息環境保全の必要性が指摘されています。根室は海鳥を観光資源とするクルーズ船が複数就航しており、同時に漁場整備が進められ洋上風力発電の導入ポテンシャルも高い場所です。助成では、海鳥の利用と人間活動による危険性を示すマップを作成し、これらの人間活動を促進しつつ、関係者への海鳥保護の普及啓発を行います。
海鳥が開発行為により影響を受けやすい場所を示した、人間活動に対する事前ゾーニングに役立つマップは日本で少なく、本活動はその先行事例の一つとなるものです。本活動を参考にこのようなマップが全国で作られることで、今後は希少海鳥になるべく影響を出さない海域を選びながら人間活動を進められるようになります。(日本野鳥の会) |
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保護のための基礎資料収集
オオタカとサシバはともに里山が主な生息地と言われてきましたが、近年ではオオタカは都市部への進出がみられ、サシバは山地でも繁殖していることが明らかになってきました。希少種である両種の今後の保護のあり方を検討する上では、都市部のオオタカと山地のサシバの分布や生息状況のデータの収集が必要となります。2014年度の助成では、すでに先行している調査のより詳細なデータを収集するため、オオタカは栃木県宇都宮市の市街地で、サシバは石川県白山市の山間地で、営巣地各5ヶ所、うち各1ヶ所で小型無人カメラを設置して、繁殖状況や巣に運ばれる餌動物の解析を予定しています。
オオタカは都市部で、サシバは山間地で、どんな獲物を捕らえているか、とても興味があります。さらに今後は、どんな環境でそれらを捕えているのかも、調べたいと考えています。これらの成果が猛禽類の保全を進める上で役に立てば、うれしいです。(オオタカ保護基金) |
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-タンチョウの電線、車、列車衝突事故防止への取組み-
北海道の釧路を中心として30年もの間、活動を続けてきているグループです。1952年に初めて行われた調査で33羽だったタンチョウは、昨今では約1500羽まで増え、繁殖つがい数は初めて400組を数えました。しかし、我々は、そろそろこの数は飽和点なのではないかと考えています。というのも、繁殖地の面積が限られていること、また人慣れが進み、車や列車による交通事故や電線等の人工物との接触事故に遭うタンチョウが増えているためです。2014年度の助成では、我々はこれらの事故原因のひとつひとつをチェックし、対策につなげていきたいと考えています。
2013年に行なったワークショップで、事故発生現場の検証が重要であり、実効性のある対策は現場検証から見えてくるとの指摘が出された。現在、環境省の記録を基に事故現場を回ってデータシートと写真の記録を収集している。注意看板の設置については道路管理者からの協力が得られる可能性が示唆されている。(タンチョウ保護研究グループ) |
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九州南端から台湾までの間に点在する南西諸島は、生物多様性に富み、固有種・固有亜種の宝庫です。小さな島々の自然環境は開発のダメージを受けやすく、野鳥の生息地はヒトの生活圏の拡大により徐々に狭められつつあります。私たちは、南西諸島に生息する野鳥の多様性とその生息地の危機的状況を、とくに地元の方に強く認識していただくにはどうしたらよいか、その方策を思案してきました。今回の助成を受けて、その方法のひとつとして、南西諸島の特徴的な野鳥200種の写真を一同に集めて展示する「南西諸島の鳥200展」を屋久島、奄美大島、沖縄、石垣島で開催する予定です。
南西諸島を特徴づける野鳥の写真を一堂に集めて展示する写真展は、これまでまったく無かった新しい試みであり、島々を巡る写真展を通して、地元島民の方が島々の自然の役割について考える契機となることを目指しています。ただ予算の関係上、開催場所、期間等が十分とはいえず、今後さらに改善していく必要があるように思われます。(群島鳥類研究会) |
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-川魚を餌にする野鳥の餌生物の実体の解明と
餌となる小魚の保護と啓発-
研究会では、1992年から天竜川中州で繁殖するコアジサシの生態研究と保護を継続してきました。昨年から2年継続して、鳥そのものではなく、県内各地の8河川の遡上魚の種類、時期、数量の解明とヒトによる捕獲の実態把握、鳥種ごとの捕食の状況把握などを目指します。なぜなら、河川と海を往き来している膨大な数の小魚は、川を拠り所にする多くの生物の生態系を底支えする非常に重要な位置にあると考えるからです。県内8河川の回遊魚の遡上とヒトによる捕獲の実態を比較解明し、ヒトによる乱獲への啓発活動を行います。
カワウによる静岡県内河川のアユの捕食率は捕食魚全体の30%未満です。膨大な回遊魚の遡上期の保護は相対的にアユの捕食率を下げます。しかし川の魚を直接管理する立場の漁協はカワウの食害を声高に言うものの、一般魚種の保護には一部を除いて関心が薄いのが現状です。内水面漁業規則との兼合いでの対策を考えています。(静岡県渡り鳥研究会) |
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公益信託「サントリー世界愛鳥基金」はサントリー創業90周年記念活動の一環として愛鳥活動の一層の充実を図るため、1989年に創設されました。
自然保護活動は一時的なものではなく、ずっと続けていかなければ意味がないという考えを礎に、平成2年度(1990年度)から平成26年度(2014年度)の25年間に、延べ275件に2億9,920万円の助成が贈呈され、大きな成果をあげています。
贈呈式の記事でご紹介した「鳥類保護団体への活動助成」部門の他に、地域に根ざした身近な鳥類保護・観察活動を行う学校のクラブ、ボランティア団体等の地域グループが助成の対象となる「地域愛鳥活動助成」部門の26年度助成先11団体をご紹介します。