鳥の観察といえば、双眼鏡や望遠鏡での野鳥観察を思い浮かべる方が多いかと思いますが、今回はチョット趣向を変えて、間近でじっくり鳥の観察ができる動物園に出かけてみましょう。
動物園で大人気のペンギンにスポットを当てつつ、一般にはあまり知られていない動物園の役割などを紹介します。
動物園で大人気のペンギンは、分類については研究者によって見解が分かれる部分もありますが、6つのグループに分けられます。
これらのうち、出会える機会が多いのは、国内での飼育個体数が最も多いフンボルトペンギンが含まれるグループ(スフェニスカス属)でしょう。
このグループには4種が含まれ、現在、日本では飼育されていないガラパゴスペンギンを除き、フンボルトペンギン、マゼランペンギン、ケープペンギンの3種を見ることができます。ちなみに、これらの種の名前(和名)は、すべてそれぞれの種の生息地に由来しています。
現生ペンギン類で最大のエンペラーペンギンと、それに次ぐ大きさのキングペンギンの2種のみで構成されるグループ(アプテノディテス属)は、ずんどうな身体に比較的長い翼、そして識別のポイントにもなっている目の後ろから胸にかけて見られる黄色(エンペラーペンギン)や橙色(キングペンギン)が特徴です。
ヘアスプレーのCMで有名になったイワトビペンギンが含まれるグループ(エウディプテス属)は種数がいちばん多く、6種すべてが赤色系の嘴と目を持ち、頭部に特徴的な黄色の飾り羽を持っています。
他に、白と黒のツートンカラーで、黒い頭部に白い縁取りのある目が特徴のアデリーペンギンを含む3種のグループ(ピゴセリス属)、現生ペンギン類で最小となるコガタペンギンを含む2種のグループ(エウディプトゥラ属)、ニュージーランドの固有種で、最も絶滅が危惧されているキガシラペンギン1種のみからなるグループ(メガディプテス属)があります。
「ペンギン」という名前が最初につけられたのは、実はこれまで紹介してきた南半球に生息するペンギン類そのものではなく、北半球の北大西洋と北極海にかつて生息していたオオウミガラスに対する呼び名でした。
この鳥は全長約80cm、体重5kgにもなる大型の鳥で、その大きさに由来するラテン語のピングイス(pinguis:太る、脂肪、肥満)を語源とする説と模様に由来するウエールズ語のペングイン(pen-gwyn:白い頭)を語源とする説があります。
北海道天売島で非常に少数が繁殖しているウミガラスと同じ仲間の鳥ですが、飛翔することができず、現生のペンギン類と同じように水中を巧みに泳いで魚を捕らえ、地上ではよちよちと歩いたそうです。
もともとは数百万羽が生息していたとされていますが、卵や肉、羽毛を目的とした乱獲により急激に個体数を減らしていきました。それによって希少性が高まり、コレクターや博物館などによる標本目的の需要が急増しました。そのため取引される金額がどんどん高騰し、一攫千金を狙った人々による捕獲圧が高まり、1844年6月3日、アイスランド沖のエルディー岩礁で繁殖していた最後のペアが捕獲され、ついに絶滅しました。
オオウミガラスは、保護に関する手立てがなされる前に、野生下の個体の死亡で絶滅が確定しましたが、動物園などの飼育個体の死亡で絶滅した鳥類もいます。有名なものとしては、アメリカのリョコウバトが知られています。
リョコウバトは、18世紀には北米全土に約50億羽が生息したと推測されていますが、100年間におよぶ乱獲で1906年に野生絶滅し、1908年には飼育されていた7羽のみとなりました。そして、1914年にシンシナティ動物園で飼育されていた最後の1羽が老衰で死亡し、絶滅しました。
一方で、飼育増殖に成功し、野生復帰に成功した例も知られています。カリフォルニアコンドルは、1987年に野生における生息数が6羽まで減少してしまい、全個体を捕獲してそれまでに動物園などで飼育されていた個体と合わせ22羽から保護増殖が開始されました。その後、順調に数を増やすことに成功し、サンディエゴ動物園やロサンゼルス動物園などでの飼育繁殖個体の野生復帰にも成功しています。
また、日本における野生復帰としては、コウノトリとトキの事例が知られています。コウノトリは、かつてトキと同様に国内に留鳥として普通に生息していましたが、明治期以後にその数を減らし続け、1971年に野生下で絶滅し、それ以後は大陸より不定期に飛来する個体のみとなってしまいました。保護増殖に関する取組としては、国の補助を受けた兵庫県と豊岡市が1964年にコウノトリ飼育場(現兵庫県立コウノトリの郷公園附属飼育施設コウノトリ保護増殖センター)を建設し、保護増殖を開始しましたが、取組は困難を極めました。しかし、1988年に東京都の多摩動物園が飼育下繁殖に初めて成功したのを皮切りに、翌年には保護増殖センターでも飼育下繁殖に成功し順調に数を増やし、2005年には野生復帰させることに成功しました。そして、2007年には野生下での自然繁殖も成功し、2013年9月現在、国内の野外には82羽のコウノトリが生息しているようです。
世界各地に生息する様々な動物を生体展示する動物園は、レクリエーションの場としての役割を持つイメージがあります。しかし現在の動物園は、動物に関する「調査や研究」の場としての役割や地球環境の保全などを理解するための「環境教育」の役割、さらには、前述したカリフォルニアコンドルやコウノトリの事例にあるように、これまで培った飼育技術を駆使して希少な野生動物の保護と繁殖を行う「種の保存」という役割も担っています。
最初に紹介したペンギン類についても、国内にある施設の飼育や繁殖技術が非常に優れていることから、3000羽以上が飼育されており、種の保存の一端を担っています。野生での生息個体数が2005年には1万羽程度まで減少したとされるフンボルトペンギンの飼育個体数は特に多く、1600羽以上が飼育されているそうです。
また、東京都では1988年より「ズーストック計画」として、複数の動物園、水族館が協力して絶滅の危機に瀕している希少な動物を飼育下において計画的に繁殖させて、動物園などでの展示動物を確保するとともに、野生復帰を目指す事業を開始しました。この計画で救済しなければならない動物は多数に及びますが、動物園などの収容力を考慮して50種をズーストック種として選定(鳥類としては、キングペンギン、フンボルトペンギン、コウノトリ、ハハジマメグロなどが選定されています)し、一部の動物については各都立動物園などで分担動物を決めて飼育し保護増殖を開始しているほか、ズーストック選定種以外でも希少な国内の動物の保護増殖が行われています。
鳥類では世界に1600羽ほどしか生息していないとされるクロツラヘラサギや、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」において国内希少野生動植物種に指定されており、国によって保護増殖事業計画が策定されているアカガシラカラスバトが上野動物園と多摩動物園(非公開)で、トキが多摩動物園(非公開)で飼育され、保護増殖の取組が進められています。
このように動物園では、絶滅のおそれのある野生生物について、積極的な保護と増殖に関する取組が行われているほか、違法な手段で輸入され、税関や警察に摘発されて押収された国際的に希少な動物たちの保護飼育も行われています。保護飼育されている動物としては、静かで丈夫なカメ類が特に多くみられます。
これら保護された動物たちは、その後、生まれた国へ戻れるのでしょうか。実は原産国へ戻すための法律が整備されていないため、戻すことができず、全国の動物園や水族館が受け皿となって飼育し続けていくしかないのが現状です。
また、このような希少な動物たちの保護に関する取組以外にも、怪我をして保護された野生動物を受け入れて治療とリハビリを行い、野生復帰させるなど、動物園はいろいろな役割を担っているのです。