冷たい2月の水辺で、じっと餌を狙う野生の鳥たち。
今月は、魚を食べる様々な鳥の生態を紹介します。
魚を食べる鳥といえば、真っ先にカワセミを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。「チー、チー、チー」と甲高い声で鳴きながら、水面すれすれを滑るように飛んでいく姿は、まるで青い宝石です。背中の青い色とおなかのオレンジ色の組み合わせがとても綺麗です。
オスメスの見分けは、嘴の色でできます。オスは上下の嘴が黒色で、下嘴が赤みを帯びているのはメスです。魚をくわえている写真などを見ると、大きな鳥と勘違いしそうですが、実はスズメくらいの大きさです。
魚を捕るときには、川や池に面した枝などにじっと止まって水中の様子をうかがいます。お目当ての魚を見つけると、まっすぐに水中に飛び込んで魚を捕まえます。時にはエビやカエルなども捕まえるようです。捕った魚の元気が良くて、なかなかすぐに食べられそうにないときには、胴体の中ほどをしっかりとくわえて、近くの石や枝に頭をたたきつけて魚を弱らせます。食べるときにはくわえなおして頭からペロリ。頭から食べるのには理由があって、尾から飲み込むと鱗やえらが喉にひっかかってしまうからだそうです。繁殖期になると、オスはメスに「求愛給餌」といって魚をプレゼントすることがありますが、その時にはちゃんとメスが食べやすいように頭を差し出すように魚をくわえます。とても優しいのですね。
魚を丸呑みにして消化できなかった骨などは、ペリットといってまとめて吐き出します。フクロウやワシタカなどの猛禽類のペリットは、ネズミなどの毛や骨などが混ざったかたまりですが、カワセミのペリットは、魚の骨と鱗などがかたまったものです。
カワセミは土でできた崖のような場所に50~70cmの横穴を掘って巣を作ります。かつてはその姿を町中でも見ることができたようですが、水路がコンクリート護岸となって土の露出する場所がなくなったり水質の悪化などによって、一時期、町中ではなかなか見ることができない鳥となってしまいました。しかし最近では水質が改善されて魚が捕れるようになったり、コンクリート護岸の水抜き穴や、護岸の盛り土などに営巣するなど土崖がない場所にも適応するようになったためか、東京都内でも大学のキャンパスや都市公園の池や水路でも見かけるようになりました。
水田や水路などで魚を食べる鳥としてはサギの仲間がいて、冬にはコサギとダイサギをよく見ることができます。またこの時期は、草が枯れていて見通しも良いため、じっくり観察することができます。このコサギとダイサギ、どちらもシラサギと総称されるサギの仲間で、体が白く一見同じように見えますが、名前のとおり体の大きさなどが全く違います。ダイサギの全長(嘴の先から尾羽の先までの長さ)は約90cm、冬期の嘴は黄色、足は黒色であるのに対して、コサギは全長約60cm、嘴は黒色、脚は黒で足指は黄色です。このコサギとダイサギ、違っているのは見た目だけではありません。魚の探し方もちょっと違います。
ダイサギは長い首を伸ばして、水の中をそーっとのぞき込むようにしながらゆっくり歩いて魚を探すのに対して、コサギは積極的に歩き回り、足を小刻みに震動させながら、泥の中から魚を追い出すかのような行動をします。この行動は「足ゆすり(Foot-stirring)」などと呼ばれます。コサギの足指が黄色いのは、水の中で目立たせてより効果的に魚を追い出すためなのかもしれません。
サギの仲間には、餌を使って魚をおびき寄せる賢いものもいます。ササゴイです。「投げ餌漁」や「まき餌漁」などと呼ばれますが、ハエ、セミといった昆虫やミミズなどの他、公園の池でコイなどに人間が餌としてまいたパンの残りを拾ってきて、それを水面に投げたりそっと置いたりして、寄ってくる魚を捕まえます。小枝や小石、発泡スチロールのかけらなど、魚が食べないようなものまで疑似餌として利用しているようです。ササゴイのこのような行動は、アメリカやアフリカなどの海外で確認されていますが、日本でも数十か所で確認されています。人間の世界では、ルアーフィッシングがはやっていますが、鳥の世界にもあったのですね。
また、アフリカに生息する全身黒色のクロコサギ(別名クロミノサギ)は、浅瀬で自分の翼を傘のように丸く広げて水面に覆いかぶせて陰をつくり、その中に逃げ込んでくる魚を食べます。みんな、食べ物をとるためにいろいろな工夫をしているようです。
皆さんはミサゴという鳥をご存知ですか?
世界中に広く分布し、日本でも全国的に見ることのできるタカの仲間です。日本の北部に生息している個体は、冬になると南の方へ移動するようなので、この時期に北海道や東北地方などではあまり見られないかもしれません。
体の大きさは、全長約57cm、翼開張(翼を広げたときの長さ)約1.5m、体重約1.5kgと、ほぼトビと同じ大きさの比較的大型のタカです。こんな立派なタカですが、なんと魚だけを食べて生活しています。ミサゴが魚を捕って岩陰などに蓄えていたものに海の塩水がかかり、発酵したものを人間が食べたのが寿司の始まりともいわれ、日本全国の寿司屋で「みさご鮨」の屋号が見受けられるのはこのためだそうです。ただし、実際にミサゴが捕獲した魚を蓄えるのかどうかは不明です。
ミサゴの英名はOsprey(オスプレイ)といって、最近ニュースなどで良く耳にするアメリカの軍用機の名前と同じです。ミサゴは、翼をパタパタさせて同じ場所に空中停止(ホバリング)することができますが、このような行動にちなみヘリコプターのような性能を持つ軍用機に、ミサゴの名前が付けられたのかもしれません。
ミサゴは、海岸や大きな川、湖などで採餌します。水面の数十m上空をゆっくり飛びまわり、魚を見つけるとしばらくホバリングをします。その後一気に急降下して水に飛び込み、長く鋭いかぎ爪を持った足で魚をつかみます。水面から飛び立って魚を運ぶ時には、空気抵抗を減らすためか、魚の頭を前にするように縦に持って飛んで行きます。ときには自分の体とほぼ同じ長さの魚を捕ることもありますが、そのようなときには魚が重くて、ふらふらと飛んで行きます。繁殖期などでなければ、近くの枝や杭などにとまり、捕った魚を食べ始める姿を見ることができます。捕った魚の大きさにもよりますが、1時間以上かけてゆっくり食べることも珍しくありません。
以前、東日本大震災の数年前に、岩手県大船渡市の盛川下流付近から大船渡湾にかけた範囲でミサゴの調査を行ったことがあります。調査範囲全体に調査員数人が分散して配置につき、無線機で連絡を取りながら同じ個体が同時に重複して記録されないように観察しました。6月のある日、朝から夕方まで調査をしていたら、のべ98個体のミサゴが確認でき、川や海に飛び込む姿を合計で71回見ることができました。このうち37回で魚を捕ることに成功していましたので、およそ2回に1回の割合で魚が捕れていた計算になります。盛川や大船渡湾にはたくさんの魚が生息していたこともありますが、ちょうど繁殖期に当たっていたので、ヒナに餌を運ぶためにせっせと魚捕りをしていたのかもしれません。
あの震災のあと、どうなっているのか気になってネットで調べてみると、盛川の上でホバリングしているミサゴの写真がアップされているのを見つけました。ミサゴだけではなく、海も森も町も昔の姿に早く戻れるよう切に願います。