夜行性の鳥類は日本にもたくさんいます。「
フクロウは皆さんご存じの通り、夜に行動し主にネズミを主食とする鳥です。声は「ゴロスケホッホ~」と聞きなしされます。静かな夜にフクロウの声が聞こえたら、なかなかおつな感じがします。田畑のネズミをとるということから、益鳥として昔から人々に親しまれてきました。ある地方では福を呼ぶ鳥として、ある地方では神様としても扱われてきました。
このフクロウ、ネズミをとる際には、その視力とネズミが出す微かな音を頼りに獲物を捕らえます。視力(集光力)は人間の100倍もあると言われており、そのため、昼にはまぶしすぎて行動できないと考えられています。また、耳は顔面の前方にあり、上下左右非対称についていて、音源の位置を立体的に把握できるといわれています。
さらに、フクロウの特徴として知られるのが飛んでも羽音がしない翼です。フクロウの
飛んでも羽音がしないというのは、私も野外調査の時に実感しました。同行していた先輩がTシャツの背中を真っ赤に染めて帰ってきたので、「どうしたんですか?」と聞くと、「フクロウがいきなり後ろから襲って来た。全然気がつかなかった」と。どうも繁殖期のフクロウの巣の前を通ってしまったようです。
フクロウに襲われることはまれだと思いますが、防衛行動の高まる早春にフクロウがいる森に入るときは気をつけてくださいね。
夜に行動するシギのなかには、ヤマシギとアマミヤマシギという鳥がいます。この2種は見かけは見間違うほどそっくりですが、片方は狩猟鳥獣で片方は沖縄県指定の天然記念物というまったく処遇の異なる鳥です。
まずはヤマシギのほうのお話です。
ヤマシギはチドリ目シギ科に分類される鳥で、本州中部以北、北海道で繁殖し、本州では標鳥あるいは留鳥、本州西南部、南西諸島までは冬鳥です。大きさはハトぐらいで、くちばしは長くてまっすぐ、目が頭の中心より後方に寄っています。このため、両眼を合わせた視野は前方のみならず後側も見ることができ、ほぼ360度をカバーしていると言われています。
ヤマシギは夕方に林から出てきて耕作地などで餌をとります。長いくちばしを柔らかい土の中に突っ込んで、ミミズや昆虫の幼虫などを食べます。ヤマシギのいる場所では、土の軟らかい場所にヤマシギのつついた跡がたくさん見つかります。
ヤマシギは狩猟鳥獣に指定されていて、その生息数の増減を把握するために試験的に調査が行われています。数の少ない鳥をいつまでも鉄砲で撃っていたら、絶滅しかねないですから、だいたいの生息数とその増減傾向を把握するためです。そこでやっかいなのが、ヤマシギのような夜行性の鳥類の場合、その場所にいるのかいないのかが簡単にはわからないということです。
暗い中では姿が見えませんので、声でその存在がわかればいいのですが、ヤマシギは繁殖期以外はほとんど鳴きません。繁殖期では「ブチッ、ブチッ」と特徴的な声で鳴きながら飛びますが、冬は飛び立つ時にたまに鳴くぐらいです。声で存在を確認するのも難しいのです。
夜間に動物の存在を確認する調査方法があります。ライトセンサスという手法です。夜間にえさ場と思われる水田や畑などの耕地周辺を強烈なライトで照らすと、体を上下に動かしながら歩いているヤマシギが見つかります。多い地方では水田一枚に十数羽も見つかることがあります。
次はアマミヤマシギのお話です。アマミヤマシギはヤマシギと同じくチドリ目シギ科に分類されています。奄美群島および沖縄諸島に分布する日本固有種で、国内希少野生動植物種に指定され、国のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類として掲載されています。
アマミヤマシギは、保護のためにさまざまな調査研究が行われています。そのなかでこの鳥の習性がだんだんとわかってきました。その一例を紹介します。
奄美群島に生息する数を調べるためライトセンサスを行い、道路脇で観察される個体数を調べました。どのような条件の日に観察される個体数が多いかを調べたところ、月の明るさ、雲量、風速、気温、調査時間帯のうち、月の明るさが最も影響を与えていることがわかりました。
アマミヤマシギはどうも満月に近い、明るい夜に活発に行動しているようなのです。この結果から、アマミヤマシギが行動する際には、かなり視覚に頼って活動をしているのではないかと予想されています。満月の日は真っ暗ではないので、行動しやすいのでしょうね。ちなみに月のない暗い夜も、少なからず行動はしていると思われます。
「鳥は
渡りを行う鳥には、夜間に渡る鳥と昼間(午前中や夕方が多い)に渡る鳥がいるのをご存じですか?
東京ではあまり聞こえないのですが、地方にいるとお盆の頃に、夜空から「ピッ、ピッ、ピッ」と音が聞こえるときがあります。あれ? 空から何か音がする。幻聴?でも確かに聞こえる、と。
音の主はそのほとんどがムシクイ類です。センダイムシクイやエゾムシクイがちょうどお盆の時期に渡りはじめるのです。
昔から夜に鳥が渡ることは知られていました。夜に渡る鳥は夜目が利くとしても、なぜ暗くて周囲が見えにくい夜に渡るのでしょうか。その謎には2つの仮説があるそうです。
ひとつには、夜の大気は日中よりも涼しいうえに風の方向が安定しているので都合がいいため。もうひとつには、気温が低めになる夜間は、体温が異常なほど上がらないため、というものです。
昔の研究者たちは渡りの生態を解明するため、月を眺めながら調査をしたそうです。月を望遠鏡で見て、その前を横切る鳥を観察するのです。月の前を横切った方角とその時刻を記録することで渡りのコースを推測できます。考えついた人もすごいですが、鳥の生態を調べようとする人たちの情熱もすごいですね。今なら夜に道ばたで寝っ転がって双眼鏡で月を見ていたら不審者扱いされてしまいそうです。
最近では、渡りの研究も進み、あらゆる方法で調べられるようになりました。衛星発信器の登場や、レーダーを使って鳥の渡りを調べるなどの試みもされています。夜に行動する鳥の生態が解明される日もそう遠くないのかもしれません。
皆さんも静かな場所に行く機会があったら夜空に耳を澄ましてみてください。
夜空から鳥の声が聞こえることもあるはずです。(一般財団法人自然環境研究センター 主任研究員 中山文仁)