秋の鳥と言えば猛禽類。タカやワシが秋の空を悠然と渡る時期がやってきました。
あえて今月は、渡り以外のワシとタカの話をしましょう。
名前に「ワシ」や「タカ」とついた鳥はけっこう多いですが、具体的なワシとタカの違いを皆さんご存じですか?
タカを辞書で引くと、「タカ目タカ科に属する鳥のうち中・小形のものの総称であり、大形のものは一般にワシの名がつけられている」とあります。これは果たして本当なのでしょうか?
クマタカは
クマタカとカンムリワシの大きさを比べると、クマタカのほうがずっと大きいですね。大きさで分けているというのは、どうやら違うようです。
タカは腹面と翼下に白と茶褐色(種類によっては黒)のツートンカラーの鷹斑とよばれる羽毛があると言います。日本の猛禽類であるクマタカ、オオタカ、ハイタカ等には、鷹斑模様が見られます。しかし、アカハラダカと名前がついている小さいタカの雄では、鷹斑模様が見られません。また、鷹斑模様があるけれど、名前にタカとついていないサシバやツミといった猛禽類もいます。
「鷹斑」とよばれる模様があるものをタカと呼ぶという説もどうも違うようですね。さてはて、いったいどうなってるんでしょう。
実は、タカとワシは明確な区別がないそうなのです。分類学的にもタカとワシに区別はなく、同じタカ目タカ科の鳥類です。昔から見た目であれはワシっぽい、あれはタカっぽいと区別していたのかもしれません。
ワシともタカとも名前に付かない「ハチクマ」は、同じタカの仲間のクマタカに似た姿で、ハチの巣を食べることに由来しているといいます。さて、このハチクマ、蜂の巣を食べると言いますが、どうしてでしょう。
ハチクマの繁殖期は、他の猛禽類より遅く始まります。これは子育て時期に高カロリーな餌が必要なため、ハチが多い季節に繁殖時期を合わせていると言われています。雛たちは小さい頃に、ハチの幼虫を与えられてすくすくと育ちます。その他に、カエルやヘビなどが与えられるようです。
ハチクマは蜂の巣を採食するために特化した特徴をもっています。
他の猛禽類よりも長い
先端に短いかぎのある細長いくちばしと長い
ハチクマの主な餌は、クロスズメバチの巣と言われています。クロスズメバチの巣穴を探し当て、足で掘って巣を掘り起こします。残念ながら巣を掘り起こしている場面に立ち会ったことはありませんが、貴重な映像が残されています
映像では、ハチクマは巣を掘り起こす際にハチが周囲を飛んでもお構いなしという感じです。ここではお見せできませんが、同じようにツキノワグマもクロスズメバチの巣を掘り起こすのですが、その最中にハチの集中攻撃を受け、もんどり打って痛みに耐えています。さぞかし痛いのでしょうね。
そこで疑問なのが、なぜハチクマはハチが怖くないのかということです。
ハチクマがなぜハチを恐れないのかは、いろいろな説があるようです。目の周囲が固い羽毛で覆われており、刺されないのではないかという説。ハチクマはハチの毒に対して抗体を持っており、刺されても平気だという説などなど。
諸説いろいろありますが、本当のところはどうもわかっていないようです。今後の研究に期待です。
ツミは、日本の猛禽類のなかで、最も小さい部類に入るタカです。雄はヒヨドリ程度の大きさしかありません。日本全国の平地から山地の樹林に生息しますが、都市部の緑地や公園、住宅地のちょっとした林等にも見られ、目立たないですが身近な場所にも生息する鳥です。
ツミは、繁殖期に雛を守るため、外敵であるカラスを追い払う防衛行動を行います。その防衛行動を利用して、安全に自分の子育てをする鳥がいます。
このオナガという鳥、頭と体はムクドリほどの大きさなのですが、尾羽が長く、尾羽と体を合わせるとツミよりも大きくなります。
1990年代前半、ツミの巣のまわりにはオナガが集まってきて、繁殖していました。ツミが巣の周囲50m程度の範囲に近づいてきたハシブトガラスなどの捕食者を威嚇し防衛するため、オナガはツミの巣の50m範囲内で営巣すれば、卵やヒナの捕食を避けられ、ツミに守られつつ安全に子育てできたのです。
オナガは、ツミよりも大きいのでツミの餌になることはありません。オナガはツミに守られつつ安全に子育てするのです。でも最近は、都市公園等でカラスの個体数が増加し、ツミが必要最小限の防衛行動しか行わなくなったことから、ツミの巣の周辺で繁殖しても捕食を避ける効果はあまり望めなくなり、オナガがツミの巣のまわりで繁殖することが少なくなったようです。鳥の世界でもいろいろ世情が変わってきているのかもしれませんね。
世界の鳥のなかには、巣を防衛する手段として、防御力のない鳥がより攻撃的な種の巣の近くに巣を構えることが知られています。日本で有名なのが、前述のオナガとスズメです。スズメはオオタカ、サシバ、ハチクマなどの猛禽類の巣の近くの枝や、なんとその巣自体に営巣することが知られています。
サシバ、ハチクマは、鳥類を捕らえることはめったにありませんが、オオタカは、スズメ大の鳥類も餌としています。顔も精悍で、まじまじと見られると怖いぐらいです。スズメはその怖いオオタカの巣の中で、密かに子育てをしているのでしょう。食べられちゃうかもしれませんが、スズメにとってはオオタカよりもカラスのほうが怖いのかもしれません。オオタカの巣で命がけで子育てするスズメ、いい度胸してますよね。(一般財団法人自然環境研究センター 主任研究員 中山文仁)
サントリー世界愛鳥基金は、猛禽類の保護活動をしている団体へ数多く助成しています。
そのなかのひとつ「NPO法人オオタカ保護基金」では、サシバと農業との共存をめざして活動を進めています。
オオタカ保護基金代表の遠藤孝一さんにお話をお伺いしたところによると「2006年に国のレッドリスト(絶滅危惧Ⅱ類)に指定されたサシバは、活動地域の栃木県市貝・茂木地域の丘陵地に高密度に生息しています。この丘陵地はまるで毛細血管のように細長い水田(谷津田)が張り巡らされており、森林に接する部分が多く、餌となる小動物が多いことから、サシバにとって絶好の生息地になっていることが調査によってわかりました。こういった谷津田は、農家が耕作するには条件が悪く放棄されることが多いのですが、ここも例外ではありません。この地域をモデル地域とし、どうすれば農業を継続しつつサシバが好む手入れされた谷津田地区を残していけるのかを手探りしています。近々、この地域で採れたお米や野菜に『サシバの里』で採れた環境に配慮した安全な農産物という付加価値をつけて販売する予定です。」
オオタカ保護基金では、ヒトとサシバの新しい共存を模索して活動を続けています。