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TOP > トピックス 夏だ! 休みだ!! バードウオッチングだ!!!
7月 夏だ! 休みだ!! バードウオッチングだ!!!


 鳥たちも活発に動きまわる季節となりました。
ちょっと遠出して鳥たちに会いに行ってみませんか?


ちょっと高原まで

 まずは多くの鳥たちと出会える高原に行ってみましょう。関東近県で探鳥地として有名な高原としては、富士山麓の「朝霧高原」や八ヶ岳山麓の「清里高原」、長野県北部の戸隠山麓の「戸隠高原」などが知られています。
 早朝、高原を訪れるとたくさんの鳥たちの鳴き声が迎えてくれます。ベレー帽がかわいいコガラや蝶ネクタイがおしゃれなヒガラなどのカラの仲間、黄色がまぶしいアオジやノジコなどのホオジロの仲間、「ドルルル……」と木をつつく音を響かせるアカゲラやアオゲラなどのキツツキの仲間、美しくさえずるアカハラやクロツグミ、キビタキなどなど、たくさんの鳥たちと出会えることでしょう。



高原の賑やかなさえずり。ヒガラ「ツツピーツツピー…」、キビタキ「キョロリー…」、コルリ「ヒン、タララララ…」、ウグイス「ホーホケキョ」



ヒガラ アカゲラ♀ アオゲラ♀
ヒガラ。梢の間を動き回る。蝶ネクタイと例えられる胸の模様がよく目立つ。
アカゲラ♀。白と黒のコントラスト、お尻の赤色が鮮やかなキツツキ。オスは後頭部も赤くなる。
アオゲラ♀。名前は青だが、実際は緑色のきれいなキツツキ。後頭部と目の下の赤もきれい。


アカハラ♂ クロツグミ キビタキ♂
アカハラ♂。とてもスマートな鳥。「キョロン、キョロン、ツー」と美しく大きなさえずりは、森林内にとてもよく響く。
クロツグミ。地面に降りて餌探し。真っ黒な全身に、くちばしと脚の黄色が鮮やか。
キビタキ♂。のどや腰が濃い黄色(オレンジ色)をしており、梢の間で見つけるとまるでミカンが実っているかのように見える。


高原にスズメ?

 そんななか、見覚えのある身近な鳥の姿が……スズメ? こんな森林内でスズメなんて??
 でも、よく見てください。このスズメは頭から背面にかけての茶色がより鮮やかで、ほっぺたに黒色斑がありません。そばには姿、形はそっくりなものの、全体的に灰色で白色のアイラインが目立つ鳥の姿も見つけることができるでしょう。
 実はこれらの鳥、スズメはスズメでも「ニュウナイスズメ」という別種の鳥なのです。普通のスズメはオスとメスは同じ色、模様をしていますが、ニュウナイスズメは鮮やかな茶色をした方がオス、地味な灰色でアイラインを持った方がメス、と雌雄で異なった色、模様をしています。また、スズメは年間を通して民家のまわりで生活し、子育てもするのに対し、ニュウナイスズメは、北海道や本州中部以北の日本海側の森林内で子育てをして、秋になると中部以南の雪の少ない地域などへ移動して冬を過ごします。
 さて、実際の子育てはどのような場所で行うのでしょうか? スズメは民家の屋根瓦の隙間などに巣を作りますが、ニュウナイスズメは樹洞に巣を作ります。
 ただし、自分で巣穴を掘ることはせず、自然にできたうろやキツツキなどが開けた穴を利用します。時には、コゲラやコガラが一生懸命作った巣穴を奪い取ったりすることもあります。近年、都会のスズメの住宅事情も悪化していると言われていますが、田舎のスズメも住宅探しには苦労しているようです。

ニュウナイスズメ♂ ニュウナイスズメ♀ スズメ
ニュウナイスズメ♂。頭部や背面部分がスズメよりも鮮やかな赤茶色できれい。
ニュウナイスズメ♀。体色はオスより地味な茶色だが、目の上から後頭部に向けて白色線がよく目立つ。
スズメ。ほっぺたに黒い斑点が特徴。


ちょっと北海道まで

 次は北海道へ足を延ばしてみましょう。有名な探鳥地には新千歳空港からバスなどの利用で15分ほどの所にある「ウトナイ湖サンクチュアリ」のほか、タンチョウで有名な「釧路湿原」や「野付半島」があります。
 今回は有名探鳥地ではなく、調査で訪れた「名寄市」でのお話です。名寄市は道北地域の盆地に位置し、市内中心部を挟むように天塩川と名寄川が流れています。内陸の盆地地形であるため冬期の冷え込みは厳しく、空気中の水蒸気が凍ってキラキラと光るダイヤモンドダストが見られる場所としても有名です。
 名寄市までは、羽田より飛行機で旭川空港まで約1時間40分、旭川空港からは車で2時間、と到着まではかなり時間を要しました。到着してすぐに目についたのはノビタキです。本州では高原草地などかなり限られた場所でしか見ることができませんが、こちらでは少し郊外に移動すれば「これでもか」というくらい見ることができます。また、アオジも多く、農地の畦に繁茂するオオイタドリの上でノビタキと共に盛んにさえずっていました。丘陵部には牧草地が広がり、周囲の灌木上では鮮やかな赤い色をしたベニマシコのオスがさえずっていました。この鳥は関東などでは冬鳥ですが、ここ北海道では夏鳥として観察されます。
 山間部の林道に設けた調査ルートに入るとアカゲラやヤマゲラなどのキツツキの仲間のほか、とてもうれしい出会いが待っていました。

ノビタキ♂ アオジ♂ ベニマシコ♂
ノビタキ♂。北海道の郊外では、本州におけるスズメのようにたくさん観察することができる。
アオジ♂。本州中部以西では冬鳥として観察される。さえずりは美しく、ゆっくりとした美声を響かせていた。
ベニマシコ♂。本州以南では冬鳥として河川敷などの草地で見られる。オスは冬羽も赤みがあり赤い鳥として人気があるが、夏羽はより赤味が鮮やか。


飛翔する「ひよこ」

 林道ルートを進み、前方が死角となっているカーブを曲がった時のことです。地上から黒っぽいニワトリぐらいの鳥が飛び立ち、近くの木に止まりました。と同時にピンポン球くらいの黄色いぽやぽやした綿のようなものが4つ、ふわふわと舞い上がり、そのうちの一つが近くの低木に止まりました。
 あわてて双眼鏡を大きい方に向けると、そこにはエゾライチョウの姿がありました。国内では北海道だけに生息するライチョウの仲間で、初めて実物を見ることができました。樹木の横枝にとまり、それ以上は逃げることもせず、こちらを心配そうに伺っています。もしやと思い小さい方に双眼鏡を向けると、かわいいひよこの姿が目に飛び込んできました。
 エゾライチョウの家族と鉢合わせしてしまったようです。初めての出会いによる喜びも大きかったのですが、それ以上に驚かされたのは、エゾライチョウの雛の飛翔能力です。ひよこが飛ぶという衝撃の事実は本当に印象的な出来事でした。

エゾライチョウ エゾライチョウ雛
エゾライチョウ。一年中、北海道で見ることができる。本州の高山に生息するライチョウは冬、全身白色になるが、エゾライチョウは一年中、羽色は変化しない。
エゾライチョウ雛。見た目は、ひよこなのに、かなりしっかりと飛翔する。
ちょっと南の島まで

 今度は南の島、鹿児島県の「奄美大島」に飛んでみましょう。羽田から1日1往復飛んでいる直行便を利用すると約2時間20分で奄美空港に到着です。南の島というと沖縄島や宮古島、石垣島、西表島などを思い浮かべる方が多いと思われますが、ここ奄美大島も沖縄島と同じ亜熱帯の気候で、沖縄島に負けず劣らず世界でここだけでしか見ることのできない生物(固有種と言います)の多い地域であることが知られています。

親戚はインドの鳥?
ルリカケス
ルリカケス (写真 浜田太)
 奄美大島の固有種の鳥類として有名なものにルリカケスがいます。頭と翼、尾羽は濃い瑠璃色で、背中とお腹が赤褐色、翼の先端部分や嘴が白色というとても派手な色彩をしていますが、カラスの仲間です。固有種とされているルリカケスですが、近縁種はいないのでしょうか?
 DNA分析などの調査方法など行われていない1941年当時、鳥類学者の山階芳磨博士(山階鳥類研究所の設立者)により、色は違うものの身体の模様の配置が似ていることなどを根拠に、遠くヒマラヤ地方に分布するインドカケスとの近縁関係が指摘されていました。その後、インドカケスについてDNA分析による調査が実施された結果、形態からの類縁関係の予測だけでなく、遺伝的に見ても非常に近縁な関係にあることが証明されました。それによりルリカケスの分布の謎について次の様な推測がなされています。
 琉球列島が中国大陸と陸続きであった時代に、ルリカケスとインドカケスの祖先は広くヒマラヤ地方からインドと中国、中国から陸続きであった台湾から奄美大島までの広い範囲に分布していました。その後、他の種類などとの競争に敗れて分布域の両端部であるヒマラヤ地方と奄美大島のものを残して絶滅し、それぞれの地域で孤立した個体群が生存し続けて、進化した結果、それぞれインドカケス、ルリカケスとなったと考えられています。




世紀の大発見
ヤンバルクイナ(写真 やんばる学びの森)
 奄美大島の南には、観光地としてはあまりに有名な沖縄島があります。羽田からは毎日20便以上の直行便が出ており、約2時間40分で那覇に到着です。観光となると那覇市のある南部地域や中部地域が一般的ですが、まだ見ぬ鳥たちとの出会いに期待して、北部地域、いわゆる「山原(ヤンバル)」まで足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
 あまり鳥を知らない方でも「ヤンバルクイナ」という名前はご存知でしょう。今から33年前の1981年に沖縄島の北部(国頭村与那覇岳(くにがみそんよなはだけ))、地元では山原(ヤンバル)と呼ばれる地域で捕獲されて新種として発表された、日本に生息する鳥類の中で唯一飛べない鳥です。すでに未開の地域などほとんど存在しなかった日本において、大型の新種の鳥の発見は1887年に同じく沖縄県の北部で発見されたキツツキの仲間のノグチゲラ以来、約100年ぶりであり、世紀の大発見として話題となりました。
 このヤンバルクイナの近縁とされる種類は、フィリピンやインドネシアに生息するムナオビクイナという種類と言われています。ただ、ムナオビクイナには飛翔能力があるという点がヤンバルクイナとの大きな違いとなっています。また、沖縄島からは約1万8500年前の地層よりヤンバルクイナの祖先と思われるクイナ類の化石が出土しており、このクイナ類はその形態的特徴から飛翔できたものと考えられています。これらの事実より、飛翔能力を持っていたヤンバルクイナの祖先が古い時代に南方よりやってきたと考えられています。そして、住み着いた沖縄島には、たまたま捕食者となる中・大型の哺乳類などがいなかったために、次第に飛ぶことをやめて地面を走り回ることに特化していった結果、現在のヤンバルクイナになったと考えられています。
道路沿いのヤンバルクイナ注意の看板(写真 やんばる学びの森)
 発見の翌年には国の天然記念物に指定されて保護されることになったヤンバルクイナですが、開発による生息地の分断や破壊のほか、飛べない鳥であるがゆえ、整備が進んだ林道での交通事故や雛が道路側溝へ転落して這い上がれずに死亡する事故、野生化したペット由来のイヌやネコ、外来種ジャワマングース(フイリマングース)による捕食などの影響により生息数は減少しています。
 これらの危機に対して、環境省や沖縄県、NPO、サントリー世界愛鳥基金の助成を受けた地元小学校などによって、保護増殖の取組やネコやマングースの捕獲、交通事故対策や救護活動など多くの保全活動が実施されています。今年3月には、国内2例目となる飼育下における自然孵化に成功したというニュースも報道されました。


(一般財団法人 自然環境研究センター上席研究員 中島朋成)

サントリー世界愛鳥基金では、ヤンバルクイナの保全のために、
いくつもの団体に助成を行っています。
ヤンバルクイナ
餌を探すため道路に出てきたヤンバルクイナ。写真提供:やんばる国頭の森を守り活かす連絡協議会

 助成先のひとつである『やんばる国頭の森を守り活かす連絡協議会』は、ヤンバルクイナなど貴重な野生生物との共生のための普及啓発活動を行っています。協議会の事務局長の大城靖さんによると、「私が小さい頃は、人里近くでヤンバルクイナの鳴き声を聞くことはありませんでした。けれど、最近は頻繁にケェ、ケェ、ケェ、ケェ、…という大きな声を聞きます。段々畑で作物を作る人が少なくなって林地化したため、里の近くで繁殖する個体が多くなったからでしょうね。繁殖期の5、6月はとくに交通事故の多い月です。我々の調査で、林内より側溝や道路𦚰斜面のほうが好物のミミズやヤスデ、カタツムリなど餌動物が多いことがわかりました。最近は、人家のゴミをあさるヤンバルクイナも出てきており憂慮しています。さまざまな状況がヤンバルクイナを道路に誘因していると考えられます。」
 世紀の発見から33年。ヤンバルクイナ等貴重な野生生物との共生のため、活動を続けています。