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3月 鳥いろいろ 巣いろいろ 昨今の鳥たちの住宅事情は?


5月は鳥たちが一生懸命に子育てをしている時期です。
今月は、そんな鳥たちの子育ての様子を少しのぞいてみましょう。


鳥の巣いろいろ

 鳥の巣というと、木の上に枝で組んだようなものを想像しがちですが、その素材や形、作る場所は鳥の種によって実にいろいろです。たとえば、キツツキの仲間が木に穴を開けて巣を作ったり、ツバメの仲間が泥に枯れ草の茎などを混ぜたものを材料にして、民家の軒下などに巣を作ることは有名ですね。

ヒヨドリの巣(新潟県見附市) ヒヨドリの巣(新潟県見附市)
民家の庭に作られたヒヨドリの巣。ここから2羽のヒナが巣立っていきました。白く見えるのは、布テープやビニールひもで、最近では巣材にこのような人工物を使うことが増えているようです。


 また、木や建物だけではなく、頼りなさげに見える草にも鳥は巣を作ります。夏になるとヨシ原などの湿地に飛来して、大きな声で鳴くオオヨシキリは、ヨシの葉や茎に、水辺にある細い枯れ葉などを上手に編み込んで巣を作ります。大風が吹いたときには、この巣はいったいどれくらい揺れるのでしょうね。

オオヨシキリの巣(広島県大崎上島町)
オオヨシキリの巣(広島県大崎上島町)
巣は深さ6cmほどの大きさですが、ここに卵が4~6個産み付けられるようです。この巣にもビニールひもや細いロープ状のひもといった人工物が使われていました。


 地面に巣を作るものもいます。ヒバリです。草の根ぎわの地面のくぼみに細い枯れ草を上手に編み込みながら敷き詰めています。元々は麦畑や河川敷などに多く巣を作っていたのですが、最近は麦畑が減っており、河川敷も野球場やサッカー場として整備されるところが多く、東京都ではヒバリが「保護上重要な野生生物種(東京都レッドリスト)」に指定されるようになりました。
 他に地面に巣を作る種としては、コアジサシがいます。夏鳥として日本に渡来するこの種は、河川の中州や海岸など砂や砂利のある場所に集団で繁殖します。巣は、というと、地面のくぼんだところを選び、小石などを取り除いて簡単な巣を作って卵を産み落とします。そのため、遠目に見るとどれが巣か分からない感じです。また、卵の模様は地面の色彩と似ており、外敵から発見されにくくなっているようです。

ヒバリの巣(埼玉県深谷市) コアジサシの巣(山口県周南市)
ヒバリの巣(埼玉県深谷市)
ヒナにエサを運ぶ親鳥は直接この巣に降りることはなく、少し離れた所に一度降りた後、地面を歩いて巣までたどり着くようです。
コアジサシの巣(山口県周南市)
ヒナは孵化すると2~3日で巣を離れるので、このような簡単な巣でも良いのかもしれません。


都会暮らしに順応

 スズメは昔から私たち人間にとって身近な鳥で、わらぶき屋根や瓦屋根の隙間や雨戸の戸袋などによく巣を作っていました。しかし、最近では近代的な家屋が多くなり、そのような隙間が減ってきてしまいました。今、スズメたちはどうしているのでしょう?結構たくましく生きています。道路標識の支柱となっている鉄パイプの中や、駅やビルなどの構造物のちょっとした隙間を利用し始めているようです。写真は駅の鉄骨の隙間に巣材を運び込んで営巣しているスズメです。最近では、ツバメの巣をスズメが乗っ取るといった話も聞くようになりましたから、やはり住宅難なのでしょうか。

巣材を運ぶスズメ(千葉県野田市)
巣材を運ぶスズメ(千葉県野田市)
枯れ草をくわえて鉄骨の隙間に運び込むところ

 カラスは、里山などでは高い木の枝の上に巣を作るのが普通ですが、都会では電柱に巣を作ることも多いようです。どこからこんなに持ってくるのだろうと思うほど大量の針金ハンガーを用いて巣の土台を作り、その上に木の枝を上手に組み合わせて作ります。高圧鉄塔や電信柱などにカラスがこのような巣を作ると、その巣材がショートの原因となるため、電力会社の人を困らせています。写真のハシブトガラスの巣も撮影した数日後に撤去されてしまいました。

ハシブトガラスの巣(東京都台東区)
ハシブトガラスの巣(東京都台東区)
鳥たちに住まいを提供

 東京都港区の芝浦運河では、カルガモのための巣箱ならぬ巣台が作られています。ここは、もとはヨシのある水辺だったところで、子連れのカルガモの姿も見られたようですが、最近ではすっかり護岸されて環境が一変し、カルガモ親子を見ることがなくなったようです。そこで2007年より、港区が住民参画事業としてカルガモプロジェクトという、カルガモの姿を取り戻すとともに、水辺の魅力を感じ、それを高める取り組みを開始しました。プロジェクトでは、2m四方の木製の巣台の下に浮きを付け、上にはヨシなどをはやしたものを作成し設置しています。この巣台を設置してからは、毎年ヒナの誕生が確認されているようです。

カルガモの巣台(東京都港区) カルガモの巣台(全景)(東京都港区)(全景)
カルガモの巣台(東京都港区)
巣台の近くに見える2羽はカルガモ。巣台のすぐ上には、モノレールや自動車の通る橋があります。また、運河の岸ではランニングする人も多い場所ですが、皆が温かく見守っているためか、継続して繁殖が確認されています。


 巣箱というと、シジュウカラ、ムクドリ、スズメなどの小型の鳥が使うものと思いがちですが、フクロウ用の巣箱もあります。この写真の巣箱は、生き物と環境の関わりや、生き物同士の関わりについて多くの人々に関心を持ち、理解してもらう活動の一環で、山階鳥類研究所の協力で我孫子市鳥の博物館が設置したものです。全長が50cmもあるフクロウですから、巣箱も高さ90cmもの大きな箱になります。これまでに2回繁殖に成功しているようで、子育ての様子がインターネットで確認できるようになっています。
 ひと昔前であれば、大木のうろ(樹洞)等に巣を作っていたフクロウですが、最近では巣を作ることができるような大木も少なくなっています。このフクロウのように、私たちが気づかないうちに巣を作る場所が減ってきている鳥は、まだたくさんいそうです。巣箱をかける前には、その鳥に悪い影響を与えないように細心の注意を払う必要がありますが、フクロウの巣箱やカルガモの巣台のように工夫をしていけば、今後いろいろな鳥の繁殖を手助けできるかもしれません。

フクロウの巣箱(千葉県我孫子市 我孫子市鳥の博物館提供) フクロウの巣箱
(千葉県我孫子市 我孫子市鳥の博物館提供)
巣箱の上にはライブカメラが取り付けられており、親鳥がどのようなエサを運んでくるのかもよく分かります。フクロウはネズミのような小動物をエサとして捕まえるとよく言われていますが、この巣箱では、親鳥が小鳥を多く運んでいるのが確認されました。
以下サイトで今日の巣箱の中を観察できます。
http://field.bird-mus.abiko.chiba.jp/


鳥も子育ては大変

 卵からヒナが孵ると、親はヒナのためにたくさんのエサを運ばなくてはなりません。鳥の種や、ヒナの数などによって運ばなくてはならない量も変わってきますが、ムクドリでは孵化してから10日間に、ヒナの体重がおよそ5倍にも増加するのですから、相当な量を運ばなくてはならないことが想像できます。
 過去に私たちはムクドリがどのようなエサをどのくらいの頻度で運んでくるのかを巣箱を使って調べたことがあります。まずは、巣箱を設置してムクドリが使ってくれるのを待つのですが、使ってくれるかはムクドリまかせのため何台か設置してもそのまま使われなかった巣箱もあります。巣箱には親鳥が運んできたエサを見ることができるように、巣箱の入り口にもう一部屋前室を設けて、親鳥の口元をカメラで記録できるようにしておきました。その記録を解析すると、育雛期間のうちの16日間で両親がおよそ1900回もエサを運ぶことが確認されました。計算すると1日平均100回以上も運んだことになります。最も多く運ばれてきたエサはバッタの仲間であるケラで、その他にチョウやガの幼虫、ミミズやカエルなどの動物質のエサのほか、桑の実といった植物質のエサも確認されました。雨の日もエサを探してせっせと運ぶのですから、子育ては大変ですね。



ムクドリの巣箱の中をのぞいてみよう
クワの実を運んできました ケラを運んできました


 繁殖期の鳥たちは子育てに忙しく、また敏感な時期でもありますから、子育て中に巣を探したりはしないでください。親鳥が頻繁に出入りしている場所があってもその時は我慢。ヒナが巣立ったあとにそっとのぞいてみてください。意外な発見があるかもしれません。



((財)自然環境研究センター 主席研究員 安齊友巳)

鳥の巣 豆知識 「巣のない鳥」
ウミガラスの卵(我孫子市鳥の博物館所蔵)
ウミガラスの卵
(我孫子市鳥の博物館所蔵)

 ウミガラスという鳥は、繁殖期に孤島や海岸の断崖等に集まって繁殖をします。巣は作らず、岩棚の上に直接卵を産みます。卵が岩棚から転がり落ちてしまわないか心配ですが、卵の片方だけが細長くとがっているため、転がってもその場で円を描くようにしか転がらないので、岩棚から落ちることはあまりないようです。良くできていますね。



※おことわり
なお、本コンテンツで取り上げた巣の写真のうちヒバリ、コアジサシは現地調査中に偶然発見したもので、撮影を目的として巣を探索したものではありません。ハシブトガラス、スズメは繁殖に影響のないと思われる位置から撮影。ヒヨドリ、オオヨシキリは繁殖終了後の巣です。