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1月 高病原性鳥インフルエンザ 警戒中! 鳥インフルエンザ


近年冬になると、鳥インフルエンザの報道をよく耳にします。今月は、鳥インフルエンザに関する話題です。

鳥インフルエンザって?

 インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3タイプがあり、B型とC型は通常人間だけが感染します。A型ウイルスの中には細かく見ると100を超えるタイプ(専門用語で亜型といいます)が知られており、主に人に感染するものや鳥に感染するもの、他の哺乳類に感染するものがあります。このようなA型のウイルスによって引き起こされる鳥の病気のことを、鳥インフルエンザといいます。
 日本では、平成16年に79年ぶりに山口県で高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された後、大分県や京都府でも相次いで発生が確認されました。その後、国内では数年おきに発生が確認されましたが、それは養鶏場などで飼育している鳥での発生でした。
 ところが、平成20年には秋田県十和田湖や北海道で野鳥のオオハクチョウが感染して死亡しているのが発見され、平成22年冬から23年春にかけては養鶏場だけではなく、全国的に16道府県でキンクロハジロ、オシドリ、ハヤブサなど15種60個体の野鳥に感染が確認されました。

鳥インフルエンザウイルスには、ニワトリに対する病原性が強いウイルスと弱いウイルスがあります。この病原性の強いウイルスによって引き起こされた病気が「高病原性鳥インフルエンザ」で、法律上は家禽を対象とした定義となっています。野鳥においてもこれに準じて、ニワトリに対する病原性の強いウイルスの感染を高病原性鳥インフルエンザと呼んでいます。


図版:平成22年秋から平成23年春にかけて野鳥で高病原性鳥インフルエンザが確認された道府県
平成22年秋から平成23年春にかけて野鳥で高病原性鳥インフルエンザが確認された道府県
糞を拾って早期発見

 鳥インフルエンザウイルスはどこからやって来るのでしょうか?海外から日本への侵入については、近隣発生国から人の靴の裏に着いた泥と共に入って来るのではないかとか、物品に付着して入って来るのではないかなどいろいろな可能性がありますが、これまで日本では秋口から春にかけて発生していることから、大陸から冬鳥が運んでいるのではないかとも考えられています。
 鳥インフルエンザウイルスは鳥の腸内等で増殖し、排出した糞から別の個体に感染していきます。鳥の種類によって(カモ類など)は、鳥インフルエンザウイルスに感染してもすぐに死なず、ウイルスを含んだ糞を排出して、別の個体に感染させている場合もあります。そのような糞を調査すれば、日本国内へのウイルスの侵入を早く察知して警戒することができます。
 このため、平成20年からは毎年秋から春にかけて、全都道府県で隔月に100個ずつのガンやカモ類の糞を採取して分析する体制が整えられました。鳥の糞というと一般的には白い液体状の物を想像するかもしれませんが、意外にも円筒形の細長い糞をします。ハクチョウでは人の指くらいの太さで、カモ類だともう少し小さく、一見ねりわさびをチューブから絞り出したような感じです。
 ウイルスを検出するためには、できるだけ新鮮な糞が必要です。また、陸上でしか糞を拾うことができないため、調査員はカモが岸辺で休んでいた場所などを丹念に探し、ひたすら糞を拾うという地道な作業を続けています。

採糞風景 カモの糞
採糞風景(福島県福島市)
カモの糞

ツルの激減をふせぐ

 毎年冬になると日本にはたくさんのナベヅルやマナヅルが大陸から渡ってきます。その数は2種を合わせて1万羽を超え、ナベヅルでは世界に生息する個体の8〜9割、マナヅルでは約5割が、鹿児島県の出水地方で越冬するといわれています。出水は「鹿児島県のツルおよびその渡来地」として国の特別天然記念物にも指定され、給餌をするなど手厚く保護をされている事もあり、夕方になるとねぐらにはたくさんのツルが集まってきて、大変高密度な状況になります。
 そんな越冬地で平成22年の年末から翌春にかけて高病原性鳥インフルエンザによって7羽のナベヅルが死亡しました。現場では、ねぐら周辺の立ち入り禁止措置や、ねぐら周辺でのウイルス確認調査、獣医の常駐、ツルの衰弱個体の保護および隔離飼育など、様々な対応がとられました。感染したツルの7羽中6羽が12月末に発見され、7羽目が2月に確認されたのを最後に収束したため事なきを得ましたが、あの越冬地の群れの中で鳥インフルエンザが大流行したら、ツルの数が激減したり、絶滅につながる事態にもなりかねない状況でした。

 このような事態を避けるために、以前より佐賀県伊万里市ではツル誘致のために、稲の収穫後に出てくる二番穂をエサとして食べられるような工夫をしたり、ねぐらとして利用できるように冬の間も水田に水を張ったりするなど、水田環境の整備を進めています。また、デコイ(ツルの模型)を設置して野生のツルを誘因するなど、ツルの越冬地を分散するような活動が始められています。

ねぐら周辺に集まるマナヅルとナベヅル
ねぐら周辺に集まるマナヅルとナベヅル
(鹿児島県出水市)




続く地道な採糞調査

 もし、糞から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認されれば、野鳥監視重点区域を指定して警戒レベルを上げます。そして、その区域内で発見される感染リスクの高い種については、より多くの種について1羽の死亡個体でもウイルス保有の検査をし、野外における高病原性鳥インフルエンザウイルスの状況を把握できるような体制をとると共に、関係各所へ警戒を促すような情報を発信します。
 各都道府県の調査員の方々は、野鳥や家禽などに高病原性鳥インフルエンザが蔓延する前に、早期にウイルスの侵入を発見するため、地道な採糞作業を進めています。

 1月は身近な川や池などで、カモ類をはじめとした冬鳥を観察しやすい時期です。冬鳥がみな鳥インフルエンザを持っているわけではありませんし、遠くから望遠鏡や双眼鏡で眺めるのであれば、過度に心配する必要はありません。この冬も、いつも通りの野鳥観察を楽しんでください。

池の岸に集まるカモ
池の岸に集まるカモ(富山県富山市)


((財)自然環境研究センター 主席研究員 安齊友巳)

コラム 心配しすぎないで

 死亡した野鳥などの野生鳥獣を発見した場合は、素手で触らないようにしましょう。野鳥は様々な理由で死にますので、死体を発見しても鳥インフルエンザが原因とは限りません。もし、同じ場所でたくさんの死体を発見したら、お近くの市町村役場などにご連絡下さい。
 鳥インフルエンザウイルスは、野鳥観察など通常の接し方では人間に感染しないと考えられています。日常生活において野鳥などの野生動物の排泄物に触れた後は、手洗いとうがいをすれば過度に心配する必要はありません。