秋は子育てが終わった鳥たちが、新しい表情を見せる季節。
高い秋空を見上げて、身近な野鳥を探してみよう。
最近夕方になると、駅前が妙に騒がしくありませんか? 駅前の街路樹や電線には、ギュルギュル鳴きながらたくさんの鳥がとまっています。しばらく見ていると、あちらこちらから三々五々、鳥の群れが次々に集まってきます。
ムクドリです。全身は黒色ですが顔の周りは白く、足と嘴はオレンジ色をしている鳥です。
ムクドリの仲間は集合性が強く、繁殖期を除き、昼間は畑や果樹園などに群れで飛来して餌を探し、夜も集まってねぐらをとります。繁殖が終了する6月末頃から秋にかけてさらに多くの群れが集まり、数百から数万羽もの個体からなる「夏ねぐら」と呼ばれる大集団のねぐらを形成します。かつては田園地帯の林や竹林などにねぐらをとっていましたが、近年の急速な都市化によって林等が失われたため、市街地の街路樹などに逃げ込んだのかもしれません。
このような夏から秋にかけて形成される群れはムクドリだけではなく、スズメやハクセキレイなどにも見られます。ハクセキレイでは、工場の屋根の隙間などを利用して風雨を避け、また温排気やネオンの熱などを利用するねぐらも知られており、むしろ積極的に都市環境を利用しているのではないかとも言われています。
ムクドリにとっては、近年住みやすい駅前かもしれませんが、付近の住民などにとっては大迷惑です。夕方になると鳴き声による騒音がひどく、街路樹の下はたくさんの糞や抜けた羽毛で汚れ、衛生的にも問題です。ねぐらとされてしまった街路樹の周辺では、目玉模様の風船をぶら下げたり、爆発音や鳥の嫌がる声を流したりするなど追い払いのためのいろいろな対策がなされているようですが、あの大集団を前にして有効な手立ては見つかっていないようです。
こんなムクドリの大集団ですが、秋が深まると小さな群れごとに分散してしまい、多くの人を悩ませた大集団は、いつの間にか見られなくなってしまいます。
夏が終わるこの時期、郊外を歩いていると、「キーッキッキッキッ……ギョンギョンギョン」と甲高い鳴き声を耳にします。声のする方に目を向けると、長い尾羽をぐるぐる回しながら鳴いている鳥が見つかります。この鳴き声は「高鳴き」といって、モズが秋に鳴く独特の声であるため、俳句や和歌では秋の季語として、「
モズは全長が20cm程度の鳥で、昆虫や、トカゲ、カエルなどを食べます。よく見るとくちばしはタカのように鉤状に曲がり、爪は鋭く尖っています。ときにはスズメなどの小型鳥類や、ネズミなどの小型哺乳類も襲って食べることがあります。秋になるとバッタやトカゲが尖った枝先や有刺鉄線のトゲに刺さっているのを見かけることがありますが、これはモズの仕業で「はやにえ(早贄)」と呼ばれています。
日本では、秋は鳥が南へと渡りを開始する時期です。多くの渡り鳥と同様にタカの仲間にも渡りをする種類がいます。渡りをするタカとして、特に有名なのが夏鳥として飛来し、秋のこの時期に東南アジアなど南の国へ向けて渡りを始めるサシバとハチクマです。
海を越えて何千kmも移動するのは大変なことと想像されます。ところが、タカたちは自然条件を巧みに利用し、エネルギーをあまり使わないで飛翔する方法を身につけているようです。日中、太陽で温められた地表付近の空気は軽くなるため上昇気流が発生します。特に、山の斜面などでは上昇気流が発生しやすく、そのような場所では、グライダーのように翼を広げたまま上昇気流をうまくとらえ、グルグルと円を描きながら、徐々に高く上がっていきます。何羽ものタカがグルグルと舞っている姿は蚊柱にも似て、鷹柱と呼ばれています。
ある程度の高さまで上昇すると、次の行先を目指してスーっと滑るように一直線に滑空して移動していきます。そして、次の上昇気流のある場所でまた高度を上げて、同じように繰り返していきます。
最新の知見によると、サシバは日本国内の各繁殖地から本州の太平洋側に沿って西へ移動し、四国、九州を経由して越冬地である南西諸島方面へと渡っていきます。
ハチクマは、秋の渡りでは中国地方を西へ進み、長崎県の五島列島から東シナ海を横切って中国大陸に渡ります。その後、中国大陸を南下、マレー半島を経由し越冬地であるスマトラ島に到達します。春の渡りでは、マレー半島までは同じコースで戻りますが、中国大陸を北上するとき、秋のルートよりも少し内陸側を通り、中国東北部まで北上します。そこから朝鮮半島を経由して九州、そして日本各地へと渡ってきます。このようにハチクマは春と秋とでは異なったルートを使い分けているようです。
鳥は渡りの方角を知るために、星や地磁気などを利用しているといわれていますが、タカのように何千kmもの旅をするのに、ほぼ同じ時期に同じルートで、同じ場所を行き来できるのは、星や地磁気だけではない何か他のメカニズムがありそうです。
秋のタカの渡りを見るには、白樺峠(長野県)や伊良湖岬(愛知県)などが有名ですが、インターネットなどで探すと、その他にもいろいろな場所が紹介されているので、きっと身近な場所でも見ることができます。遠く南の国を目指すタカの気持ちになって、秋空を見上げてみませんか?
これまでの発信器は電波の届く範囲が限られていたため、遠くまで移動する動物を追うことができませんでした。しかし最近、衛星を利用した発信器の開発により、地球上のどこにいてもその位置を確認できるようになりました。
このため、海洋上を移動するアホウドリや、国境を超えて移動するツルやハクチョウなどの移動経路の解明が進んでいます。近年では太陽電池などにより発信器を小型軽量化することができ、中型のタカやカモ類にも装着できるようになりました。